交通事故
非正規雇用若年者の逸失利益
内容は「パートや派遣として働く若い非正規労働者が交通事故で亡くなったり、障害を負ったりした場合、将来得られたはずの収入『逸失利益』」は正社員より少なくするべきではないか」とのものです。
死亡したり、後遺障害を負ったときには、「生きていれば、これだけ稼げた」「後遺障害を負わなければ、これだけ稼げた」という「逸失利益」を計算して損害賠償額が算出されます。
「非正規労働者」が問題となる場合は、必ずしも多くありません。
「概ね30歳以上」の「有職者」は「直前の収入」で計算します。
30歳にもなれば、将来得られる収入の算定は難しくありません。
専業主婦は、「女子労働者の全年齢平均賃金」で計算します。
有職の主婦は、「現実の収入」と「女子労働者の全年齢平均賃金」の、いずれか高い方で計されます。パート収入がわずかでも、主婦労働はしているわけですから。
将来「専業主夫」の逸失利益という事例が出てくるかも知れません。「男子労働者の全年齢平均賃金」で計算することになるでしょう。
「学生、幼児」は「男女別全年齢平均賃金」で計算します。現実に就職していないので、「直前の収入」はありません。
ただ、平均賃金という「統計」で計算するため、平均賃金の高い「男性」が、平均賃金の低い「女性」より、どうしても高くなる傾向にあります。
また、両親が大学卒業の場合は、子供も大学を卒業するとみて、また、両親が高校卒業の場合は、子供も高校を出て就職するとみて計算することになります。平均賃金の高い「大学卒業者」が、平均賃金の低い「高等学校卒業者」より高くなります。
「不公平だ」という考えもあるのでしょうが、均一にしては「逆差別」になりかねません。
失業者・無職者の場合は、具体的事例に則して判断されます。
簡単に「一言」でいえるものではありません。
さて、30歳未満の労働者で、給料が平均より低い場合が問題となります。
従前は、30歳未満の人が交通事故で亡くなったり重い後遺症が残ったりした場合、事故前の実収入が同年代の平均より相当低くても、将来性を考慮したうえで、「男子労働者の学歴別全年齢平均賃金」「女子労働者の学歴別全年齢平均賃金」で計算をしていました。
これに問題があるというのです。
「各雇用形態の生涯所得」をご覧下さい。
男性の場合、60歳まで働いたとして、「正規雇用」は2.4億円、「正規雇用以外」は1.4億円、「パート」は5000万円くらいですね。
逸失利益は「60歳まで」ではなく、「67歳まで」で計算されますから、差はもっと開きます。
そこで、30歳未満の労働者で、給料が平均より低い場合に、「男子労働者の学歴別全年齢平均賃金」「女子労働者の学歴別全年齢平均賃金」で計算するのは「おかしい」というのが、当該「裁判官論文」の趣旨と考えられます。
非正規労働者として働き続けても収入増が期待できるとはいえず、雇用情勢が好転しない限り、正社員化が進むともいえないでしょう。また、雇用情勢が好転する見込みもありません。
(1)実収入が相当低い(2)正社員として働く意思がない(3)専門技術もない、以上いずれかの場合、若い層でも逸失利益を低く見積もるべきだということですね。
現実的には、そのとおりでしょう。
ですから「留年」までして「新卒」の資格を保持したがるわけです。
さあ、裁判官は、現実的な考えができるのでしょうか。