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身近な法律問題

誘導尋問と誤導尋問

尋問に対して、尋問をしている弁護士に対し、相手方代理人弁護士が「異議」を述べることがあります。

 異議の理由は、いろいろあるのですが、典型的なのが「誘導尋問」と「誤導尋問」です。

 誘導尋問は、本人や証人が「はい」「いいえ」で答えることのできる質問と定義されます。
 俗に、誘導尋問とは「証人に回答を示したり、ほのめかしたりして質問すること」ともいわれますが、正式な定義は「はい」「いいえ」で答えることのできる質問のことです。

 例えば、経歴を聞くとき「あなたの最終学歴は?」「どこの大学ですか?」「どの学部を卒業していますか?」「卒業したのは何年ですか?」と一々聞くのが、誘導尋問ではない、本来の尋問方法です。
 しかし、争いのない点について、一々尋問していては、時間を食って仕方がありません。
 そこで「あなたは昭和53年に東京大学法学部を卒業していますね」「はい」と誘導する方が時間の節約になります。

 これに対し、たとえば、交通信号がどうだったかが、もっとも争いになっている損害賠償請求訴訟とします。

 例えば「あなたは、付近を歩いているとき、赤信号をつっこんでいく自転車が、青信号で走行している自動車にはねられたのを見たのですね」という聞き方はしません。

 「あなたは、何日何時何十何分ころ、どこそこの横断歩道付近にいましたか?」「あなたは、どこにいて何をしていましたか?」「自転車と自動車が衝突するのが見えましたか?」「自転車の走行方向はどちら向きでしたか?」「自動車の走行方向はどちら向きでしたか?」「自転車は何信号で交差点に入りましたか?」「自動車は何信号で交差点に入りましたか?」と聞いていきます。
 重要な点で、争いになっている点ですから、誘導をしてはいけません。

 まあ、大人げないので、ある程度は我慢するのですが、ひどい場合には異議を述べます。


 誘導尋問と、誤導尋問は違います。

 誤導尋問というのは、誤った事実を前提として、質問をすることです。

 本人や証人が、言ってもいないこと、例えば、証人が「契約の場にいなかった」と供述しているのに、「契約の場に、あなたの他に誰がいましたか?」と聞いたり、契約書もないのに「契約書には、このように書かれいてるのですが、この点について、あなたは、どういう意味とお考えになりますか?」、殴ったと誰も言っていないのに「AさんがBさんを殴ったのは平手(「ぱあ」のことです)ですか、手拳(「ぐう」のことです)か?」などというものです。

 こんな「ばか」な尋問をする弁護士さんはいませんが、「わざ」と巧妙な尋問をする弁護士もいますし、記録をろくに読まず、主尋問をろくに聞いていない弁護士が「うっかり」尋問をすることもあります。

 これは、さすがに、異議を言わなければなりません。


 あと、「異議」は、自分方の本人や証人が、「たじたじ」になっているときに述べることがあります。
 「誘導です」「誤導です」「威嚇的尋問です」何でもいいのです。理由は、後からなんとでもつけられます。
 相手の尋問の流れを断切り、自分方の本人や証人に冷静になってもらうことに目的があります。
 ボールスポーツの「タイム」と同じですね。
 また、異議が正当であるかどうかの主張に見せて、本来、自分方の本人や証人に答えてもらいたいことを暗示することもあります。相手の尋問の流れをくじくことにも用いられます。

 民事は、控訴審で、第一審の尋問の方法が適切であったかなど、全くといっていいほど問題となりません。
 あとは、周到な準備と、臨機応変な尋問に心がけることが大切です。


 ただ、私の裁判官時代の経験から言うと、民事事件は、本人や証人の尋問より、紛争の生じる前に作成された書証が重要視されます。
 「結論は、書証と主張で概略でている」「まあ、念のため、当事者の納得のため聞いてみるか」程度ですね。


 ちなみに、ファストフード店のやりとりで考えてみましょう。「いらっしゃいませ」との挨拶の後に、

 「店内でお召し上がりになられますか」との質問。これは、誘導尋問ですが正当です。
 店内で食べるか、持帰るかどちらかしかありません。「はい」「いいえ」で十分です。
 「どこでお召し上がりになりますか」と質問すると、なれない客が「きょろきょろして」まわりも迷惑です。

 「何になさいますか」との質問。これも正当です。
 牛丼店でも、定食類や豚丼などを出しますし、ラーメン店でも、チャーシュー麺くらいは出します。

 「お飲物は何になさいますか」との質問。これは誤導尋問です。
 飲み物を注文するとは誰も言っていませんし、飲み物の不要な人はいくらでもいます。

 「ポテトいかがですか」押しつけがましい誘導尋問ですが、質問としては誤っていません。

西野法律事務所
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