身近な法律問題
肉を切らせて骨を切る
「肉を切らせて骨を切る」という言葉があります。
自分も痛手を受ける代わりに、相手にそれ以上の打撃を与えるという戦術です。
通常、訴訟ともなれば、自分の依頼者に有利な事実もありますし、自分の依頼者に不利な事実もあります。
えてして、自分の依頼者は、自分に不利な事実を弁護士に言おうとしません。
ただ、ある程度、なれた弁護士なら、自分の依頼者が言おうとしない、自分の依頼者に不利な事実が類型的に予想できます。
依頼者に確認して、「やはり」ということもありますし、「杞憂」に終わることもあります。
依頼者が、最初から、自分に不利な事実を正直に弁護士に話している場合、また、弁護士が、依頼者から聞き出した、依頼者に不利な事実がある場合を考えます。
また、弁護士が、依頼者に不利な事実をあわせても、勝訴の見込みと判断したと仮定します。
「その昔」という前提ですが、最終的に訴訟に勝てばいいのですから、「肉を切らせて骨を切る」という戦術もがありえました。
相手方から指摘される形で明らかになるより、自分の方から不利な事実を認めた上で、なおかつ、自分の依頼者の請求が認められるべきである、あるいは相手方の請求が棄却されるべきであるということを主張・立証するという戦術です。
小出しに、相手に指摘されて、自分に不利な事実が次々明るみにでることは、訴訟遂行上まずいですね。
ただ、時代は確実に変わっています。
一つは、能力が「今ひとつ」という弁護士が増えてきたことです。
「この程度の」事実なら、相手の方が簡単に気付いて反論してくる、相手方が、調査すれば簡単に事実が明らかになる、少なくとも自分なら簡単に調査・反論するという事実について、気付かないまま、最後までいってしまって拍子抜けすることが散見されるようになってきました。
こちらは、人証の取調べ前には証拠として出ていないものの、相手方弁護士が、自分の依頼者の反対尋問の際の「爆弾」(決定的な弾劾証拠)として温存していると予想し、それが出てきた場合、どのように受け答えするかを入念に打合わせをしていたにもかかわらず、何も出ずに人証調が終了し、判決になるというケースもあります。
こういう場合もあるので、あえて、自分の依頼者に不利な事実を先に出してしまう、つまり「肉を切らせて骨を切る」という戦術は「損」あるいは「おろか」ということになります。
自分の依頼者に有利な事実をいうだけで事足りるということになります。
もう一つは、あまり言いたくないのですが、多忙になったせいか、裁判所の判断能力不足が目立つようになってきたからです。
自分に有利な証拠は当然提出するとして、自分に不利な事実を先に出してしまう、つまり「肉を切らせて骨を切る」という戦術をとった時点で、裁判官が、不利な事実を出した弁護士は「負け筋」と読んでいる、勝負あったと「タオル」を投げてしまい、こちらに不利な和解勧告をしてくる場合がみられます。
最終的には、和解を拒否して、人証調べのうえで、こちらに有利な判決が出るにしても、無駄な労力を使わされることに変わりはありません。
結局、「肉を切らせて骨を切る」という戦術は、ごく限られた事案にしかとることができなくなりました。
こちらはこちらで有利な証拠を出し、相手方も相手方に有利な証拠を出し、こちらは相手方の矛盾をつき、相手はこちらの矛盾をつくという、つまり「お互いに」「順次」「つぶしあう」という、昔ながらの、最もオーソドックスな戦術をとるしかないということです。
一番「堅い」のですが、やはり、自分が自分の依頼者に不利な事実を「気づいていない」しまた「気づかれないと思っている」と、相手の弁護士さんや裁判官から見られるのは「しゃく」にさわりますが・・