身近な法律問題
「明らかに」「到底」は迷惑です
本当に「明らか」なら、「明らか」な理由を淡々と記載すればいいのであり、逆に、ちゃんとした理由を書けないから具体的な「理由」を書かずに、いきなり「明らかである」と書いている場合が多い、このことは、裁判官の書く判決書にも、弁護士の書く準備書面にも共通している。以上が、先輩裁判官のお話の要旨です。
それ以降、私自身は、裁判官時代の判決書、弁護士になってからの準備書面に「明らかに」と記載はせず、極力、具体的な理由を付するように努力してきたつもりです。
そのアドバイスの後、裁判官時代に、弁護士さんの準備書面の「明らかである」と記載されている部分を注意してみるようにしていましたが、本当に「自明」ということはごく少数で、多くの場合「具体的理由が書けない」ときに「○○であることは明らかである」と書いているような印象を持ちました。
理由が書けるのであれば、普通、誰でも理由を書きますよね。
弁護士になってみると、相手方弁護士さんの書面に「明らかである」と書いているところをみると、やはり「根拠が書けない」部分という印象があります。
この場合は「明らかであるとする根拠を具体的に示されたい」という反論を書けばすむことです。
一番困るのが、裁判所の判決書に、重要な争点にもかかわらず、根拠を示したり、詳細に証拠を引用することなく「○○であることは明らかである」と書かれていることです。これは、結構多いです。
勝訴の場合はそれでもいいのですが、敗訴の場合は困ります。
具体的根拠が示されていたり、具体的証拠が引用されたりしていれば、判決の基礎となった根拠や証拠を弾劾(註。信用性をなくするということです)すればいいのですから、反論も書きやすいのですが、「明らかである」と書かれたのでは、いわば「一審通りの」「反論を書く」ということにならざるをえません。
「最初から反論を書く」ということは、控訴理由書に、地方裁判所の最終準備書面の「コピペ」するということになりますが、これは「手抜きをしている」ようで、高等裁判所の裁判官に評判が大変悪いのです。
地方裁判所が「ちゃんとした」理由を書いてくれないと、一審裁判官の、手抜き判決の「とばっちり」を、代理人が受けてしまうということになります。
なお、 「明らかに認められる」の逆バージョンとして「到底認められない」というのがあります。
弁護士さんの中には、具体的理由が書けないときに「到底認められない」と書く方が多いように思います。具体的理由が書けるなら「争いのない○○の事実と矛盾するから認められない」「○○の証拠と矛盾するから認められない」と書いておられます。
相手方弁護士の準備書面の場合「到底認められない」と書かれた場合には「認められないとする根拠を具体的に示されたい」という反論を書けばすむことです。
しかし、残念ながら、裁判書にも、根拠が示されていたり、証拠が引用されたりしないまま「到底認められない」と書かれることが結構あります。
やはり、判示された具体的根拠や具体的証拠のみを弾劾すればいいというわけにはいきません。控訴理由書は、地方裁判所の最終準備書面の「コピペ」することにならざるを得ません。
当事者代理人には、裁判官を説得するに足りるだけの「説明責任」があると思いますし、裁判官には、当事者を説得するに足りるだけの判決をする「説明責任」があると思います。
これは、法律家としての当然の「マナー」でしょう。
私は「明らかに」「到底」は、極力書かないようにしていますし(私は、弁護士になってからの書面は、すべて保存しています。全文検索をかけたところ、「明らかに」「到底」は、相手方や裁判所の非難に引用されているのが殆どです)、裁判官が、判決書に書くのはやめにしてほしいと思います。