身近な法律問題
23条照会と転送先
日本郵便(JP)は従来、郵便法上の守秘義務を盾に全国一律で弁護士会による転居先の照会に応じず、訴訟当事者らが泣き寝入りする例が相次いでいました。
一審判決によると平成22年、未公開株詐欺事件で被害に遭った名古屋市の80代男性が損害賠償を求めて提訴し、被告に200万円の支払い義務があることを確認する和解が成立し、被告は必要額を支払わず行方が分からなくなり、財産を差し押さえるため、男性の弁護士の申出で愛知県弁護士会が被告の転居届の情報を郵便局に照会したが、拒否されたとのものです。
23条照会と言われ、厳密には「愛知県弁護士会」ではなく「愛知県弁護士会会長」です。
一審の名古屋地方裁判所は「弁護士法に基づく照会への回答義務は、郵便法の守秘義務に優越する」と認めつつ、「拒否には相応の事情があった」として日本郵便に過失はなかったと判断しました。
おそらく上告され、最高裁判所で審理されるかと思います。
「23条照会」をご覧ください。
相手に連絡が取れなくなったとします。
弁護士に依頼しているなら、住民票は簡単にとれます。
しかし、住民票を移転しないまま、どこかに住んでいると、住んでいる所を調べようがありません。
住民票を移転しないまま、郵便だけ受け取ろうとする人がいます。
郵便局に、転居届を出しておいて、住民票を移転しなければよいということになります。
そこで、姿をくらましている相手に対し、23条照会で相手方の転居先を調べればというアイデアがでてきます。
日本郵便(JP)は、一律で回答しない方針を決めていて、すべて回答拒否します。
住民票を移転しないまま、郵便だけ受け取ろうとする人は、DV被害により、配偶者・元恋人から逃亡しているという人が結構の割合います。
あとは、借金取りからの逃亡が多いですね。
貸金や売掛金債権者から住民票を移転しないままの債務者なら、弁護士に依頼して訴訟を提起すればよいのです。
「ワンクリック詐欺」の末尾をご覧ください。
なお「自宅や勤務先がわからなくては裁判は起こせないという」という点については「公示送達」という例外があります。
住民票をそのままにして雲隠れした債務者などには、弁護士(離婚・時効中断)や保証協会(時効中断)などは、公示送達で判決をもらうことがあります。
あとは、確定判決が時効になる10年内にゆっくり居所を探せば間にあいます。
弁護士が「直談判」に行くことはあまりありませんから、23条照会で探すということは「まれ」です。弁護士が、自分で交渉に行くならともかく、23条照会で得た、現実に住んでいる場所を依頼者には教えてはいけません。
名古屋高等裁判所の判例は、相当「希有な」事例でしょう。
なお、DV被害により、配偶者・元恋人から逃亡しているという人については、弁護士は、そもそも、日本郵便(JP)に対する23条照会では調べません。
回答拒否は当然ですし、弁護士としては、回答が返ってきたからといって、現実に住んでいる場所を依頼者には教えてはいけません。
依頼者が、直接行ったということになれば、弁護士が懲戒されかねません。
ただ、誰でも、ある程度の「あたり」はつけられます。
「郵便追跡サービス」をご覧ください。
「書留」や「特定記録郵便」は、郵便追跡サービスで、どこの郵便局から出され、どこの郵便局を経て、どこの郵便局から配達されたということがコンピュータでわかかります。
「書留」や「特定記録郵便」を相手に送れば、どこの郵便局から配達されたかわかります。
例えば、私の前住所からの転送郵便物は、西宮新甲陽郵便局から配達されます。大きな郵便局ではないので、小さい赤い丸印で示されています。
これで相当絞り込めます。最寄りの駅もわかります。
逆にいうと、DV被害により、配偶者・元恋人から逃亡している人は、隠している自宅に転送手続きをすると危険です。必ず、遠い郵便局の「局留め」にするか、親や親戚宅に転送するのが賢明です。