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身近な法律問題

弁護士の受任拒否

ときおり、法律相談などで、相談者が弁護士に対し「私の事件を受任してほしい」ということはあるのですが、弁護士が断ったとき「何で受任してくれないんだ」と「切れる」ことがあります。

 基本的に、弁護士は、事件について受任する義務は全くありません。

 医師は、医師法19条に「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定められています。
 弁護士法を見てください。「正当な事由がなければ、拒むことができない」という規定は一切ありません。

 ちなみに、司法書士は、司法書士法12条に「司法書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く)を拒むことができない」とされていて、行政書士は、行政書士法11条に「行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」と定められています。
 弁護士と大違いですね。

 ちなみに、司法書士は、もともと「司法書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼を拒むことができない」とされていたのですが、簡裁訴訟代理等関係業務ができるようになったので「簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く」という規定が入りました。

 弁護士が事件の依頼を断るという理由はいくつかあるでしょう。
 
 法律や弁護士職務基本規定(弁護士倫理)に基づくものもあります。利害相反の事件は「受任してはならない」ことになっています。
 Aさんの訴訟をやっているか、やったことがあるのに、BさんのAさんに対する訴訟を受任できません。弁護士は、Aさんの秘密を知ってるわけで、これを利用して訴訟を提起されてはたまりません。
 利害が対立する複数の人間から事件を受任してはなりません。公平性をうたがわれます。

 その他、法律や弁護士職務規程(弁護士倫理)にふれないものでも、受任しないことはいくらでもあります。

 心情に基づく物もあるでしょう。例えば、女性弁護士が、性犯罪の加害者の弁護を引き受けないというような理由もあるでしょうし、消費者運動に熱心な弁護士が、サラ金の事件を受任しないことは、ある意味当然でしょう。

 自分が、希にしか扱わない事件は、よほどのことがないと受任しません。
 弁護士には、得意不得意の事件があるわけで、相手の弁護士は、当該事件のベテラン、こちらは、法律とか基本書を読みながら訴訟をしていくのでは、勝ち目はありません。
 渉外事件など、英語などの外国語が読めなければできませんよね。

 原告で負け筋の事件も受任しません。
 最初からわかっているのに訴訟を提起したのでは不当訴訟です。
 被告の場合、負けるとしても、請求より有利な和解を目的としたり、最初から、相手の請求が過大な場合受任することがあります。

 勝ってもペイしない事件も受けません。
 弁護士は、ある程度、事件に必要な労力、訴訟の結果から得られる報酬は、たいていわかっています。
 「もうからない」事件は、特別な理由(親戚・思想信条によるもの)がある場合を除いて受任しません。

 多忙なら受任しません。
 既に受任している事件が最優先ということになります。

 話してみて、依頼者が信頼に値する人でなければ受任しません。
 訴訟は、依頼者と弁護士の二人三脚です。
 相互に不信でよい結果が生じるはずもありません。
 途中でわかれば、辞任・解任ということになります。

 理由をいえばいいのですが、理由をいうと「紛争」になることがあります。
 ですから、弁護士は「断る」理由をいう必要はないということになります。
 弁護士に受任義務がないということは、受任しない理由を述べる必要がないこと、また、受任しない理由について嘘をついても問題ないということです。

 思想信条、取扱分野外、負け筋の事件などは、率直に理由をいうことが多いです。
 私は「勝ってもペイしない」「多忙である」とはっきりいうことがあります。ただ、あなたのいうことは信用できないとは言いにくいです。

 相談者が弁護士に対し、受任を依頼し、弁護士が断ったとき「何で受任してくれないんだ」と「切れる」のではなく、何で受任してくれないか、自分の胸に手を当てて考えた方が賢明でしょう。
 

 ちなみに、大阪弁護士会は、あたかも行政書士が離婚の相談を受けられるかのような番組に抗議の声明を出しています。
 これは、弁護士法違反で、懲戒を含めた刑事罰の対象となるからで、当たり前のことです。


 さきほどの、行政書士は、行政書士法11条に「行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」と定めからすると、行政書士に離婚相談の依頼があれば、行政書士は「正当な事由がないのに」離婚相談を拒めないことになります。

 行政書士の仕事は「正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」定型的な仕事に限られます。
 離婚相談が行政書士の職務の範囲なら「正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」ことになりますが、そんな弁護士法違反の危険なことを法律が強制するはずもありません。

 つまり、離婚相談は行政書士の職務の範囲ではありません。
 もちろん、司法書士にとっても、職務の範囲でもありませんが、司法書士は、行政書士ほど仕事に困っていないので、そんな危険なことは最初からしないようです。

西野法律事務所
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