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2015年~2017年バックナンバー

悪魔の証明

安倍首相は、平成28年2月3日の衆院予算委員会において、甘利前大臣の現金授受問題に関し、TPPなどの政策が、政治献金で左右されていた可能性を指摘した民主党の岡田克也代表に対し「ないことをあるように言うのは、ばかげた議論。ないものをないというのは、悪魔の証明だ」と反論しました。


 もともと「悪魔の証明」は、古代ローマ法では不動産の所有権の証明には当該所有権の由来を逐一さかのぼって立証する必要があり、立証は極めて困難だったということで「悪魔の証明」といわれたそうです。

 原告が、所有権が自分に帰属することを主張し、被告が否認した場合には、原告が、前所有者が本当に所有権者であったこと、自分が前所有者から所有権を取得したことを主張・立証しなければならず、被告が前所有者の所有であることを否認した場合は、前々所有者が本当に所有権者であったこと、前所有者が前々所有者から所有権を取得したことを主張・立証しなければならず、被告が前々所有者の所有であることを否認した場合は、前々々所有者が本当に所有権者であったこと、前々所有者が前々々所有者から所有権を取得したことを主張・立証しなければならず・・・と無限に続き、所有権の証明は極めて困難だったということです。

 もっとも、ローマ法では「占有訴権制度」があり、所有権など占有を正当化する権利(本権)による訴えとは別個に提起され、本権の有無に関わりなく判断されることにより「悪魔の証明」を免れることが可能だったとされています。


 所有権が争いになる場合があります。

 ただ、私の経験からして、所有権争いの場合、前所有者が誰であるかについて争いがない場合が多く、前々所有者が誰かなどまではいかない事例が圧倒的です。

 また、不動産の場合、登記システムがしっかりしていますし、原則として20年の占有で取得時効が認められますから、まず、前々所有者や前々々所有者まではいきません。
 .民法186条1項には「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する」と定められていて「所有の意思ではなかった」とか、「善意ではなかった」とか、「平穏でなかった」とか、「公然ではなかった」とかは、占有者が証明する必要はありません。


 法律とは関係なく、一般論としては、「悪魔の証明」は、「『ない』ことを証明せよ、さもなくば『ある』」と主張することをいいます。 

 「起きないこと」や「存在しないこと」を証明することは困難です。

 なぜなら、「ある(存在する、起きる)」ことを証明するためには一例を挙げれば良いだけなのですが、「ない(存在しない、起きない)」ことを証明するためには、世の中の森羅万象すべてを調べつくさなければならず、それは不可能に近いからです。

 ですから、「『ない』ことを証明せよ、さもなくば『ある』」と主張は詭弁ということになります。


 ですから、民主党の岡田代表が安倍首相を追求しようとするなら、甘利前大臣の現金授受問題に関し、TPPなどの政策が、政治献金で左右されていたとの例があることを示す必要があったということになります。
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