離婚
婚姻費用分担調停の審判と審判前の保全処分
家庭裁判所の手続きとして、審判前の保全処分というものがあります。
裁判所手続は一般に長く、家庭裁判所で行われる調停や審判も例外ではありません。ところが争いの当事者にとって、すぐにでも決めてもらわないと、取返しが付かない事態というのも時には存在します。
代表的なものは、財産分与の請求が認められそうなときに、相手方が強制執行を免れる目的で、浪費する、不動産を処分する、口座にある預金を他に移して隠すことを防ぐために、仮差押さえや、処分禁止の仮処分をすることがあります。
調停の成立や審判の確定を待っていては、権利が実現できないおそれや、権利者が重大な損害を受けるおそれがあるなど、早急に対処して欲しい事情があるときは、権利の対象を保全できるような制度があります。
この保全を求める処分が、審判前の保全処分と呼ばれる制度です。
これは、一般民事事件と同じです。
一般民事事件に比べ、仮差押さえ仮処分の保証金が、破格に安いことが特徴です。
財産分与事件は、普通、不動産や預金は、たとえ夫の名義になっていても、実質的には夫婦の共有財産ですし(婚姻前の資産、相続により得た資産は除かれます。ただ、保全段階ではわかりませんが・・)、また、審判前の保全処分を求める側に、経済的余裕のない場合が多いですから、保証金が安くなります。
一般の民事事件とは異なる保全処分があります。
一般民事事件の場合、金銭支払いが命じられた場合、原則として仮執行の宣言がつきます。
たとえ控訴されて確定しなくても、仮執行宣言により、強制執行することが可能になります。
しかし、家事審判には仮執行宣言はつきません。
仮執行宣言がつかなくて困るのはどういう場合かというと、婚姻費用の審判が出たものの、相手方が抗告して確定しないため、婚姻費用が入ってこず、抗告審の決定まで2か月ほど待ちぼうけをくわされることがあります。
婚姻費用分担調停で、夫が、ある程度最低のラインを提示して、その金額を振込んでくる場合は「まし」です。
決まるまで、1円も支払わないと引延ばすという悪質な夫もいるものです。
決まるまで、1円も支払わないと引延ばすという悪質な夫もいるものです。
兵糧攻めにして、少しでも早く離婚に持込みたいということが見え見えです。
この場合は、調停不調時に審判前の保全の申立をします。
といっても、早く審判をしてくれるわけではありません。
調停から移行した婚姻費用分担審判と、全く同じ証拠資料を添付して、審判前の保全処分を申立てます。
婚姻費用分担の審判と、審判前の保全処分の主張は同じ、証拠も同じです。
ということで、同時に、婚姻費用分担の審判と、審判前の保全処分の審判が同じ日に出されます。
抗告されると、婚姻費用分担の審判は確定しませんが、審判前の保全処分の審判については、相手方に審判が到着すると同時に強制執行ができます。
普通は、あきらめて支払ってきます。
支払わなければ、給与等を強制執行するまでです。