金融・経済 バックナンバー
リテンション・マーケティング
「リテンション」とは、直訳すると顧客維持という意味です。
ある会社のサービスを提供している既存の顧客が、解約になると再度そのサービスに申し込む確率はきわめて少ないと言われています。
また、新規に顧客を獲得する為には多くのコストが必要となるため、顧客の継続に力を入れる事を「リテンション」と呼ばれています。
対義語では「アクイジション・マーケティング」(Aquisition Marketing)、つまり、「新規顧客獲得」です。
マーケットが飽和状態にある場合、膨大なコストをかけて新規を獲得するよりも既存客にアプローチした方が効率的なこともあり、多くの企業が力を入れています。
クレジットカードを解約しようとすると、時期年度の加入料を「0」円にするから、継続してほしいといわれることがあります。典型的な、「リテンション」です。
優良顧客であれば、離したくないというのは当然です。
なお、「リテンション」をしようとするならば、従前の客に十分なサービスを提供するということですから、客にとって悪いことではありません。
弁護士の場合を見ると、ほぼすべての法律事務所が「リテンション・マーケティング」の重視、一部例外が「アクイジション・マーケティング」重視です。
法律事務所の顧問契約を締結している会社は、無料で法律相談できますし、優先的に仕事をしてもらえ、事件になったときは通常約3割引きの報酬で仕事をしてもらえます。
その代わり、毎月「顧問料」を支払わなければなりません。会社・事業所なら、必要経費で落とせます。
法律事務所としては、顧問先は大切にします。
顧問料は安定的な収入源という一面もあるのですが、「きっちり」仕事をしていれば、会社の顧問の場合、従業員、取引先、取引先の従業員などが法的トラブルにまきこまれたとき、信頼できる弁護士として紹介してもらえるということが期待できます。
顧問契約は二重三重の意味で、法律事務所にとって大切なものであり、顧問先の仕事について、間違っても「手を抜く」ということはありません。
法律事務所は、基本は、「口コミ」により、依頼者を集めるというのが、伝統的なマーケティングで、一番手っ取り早いのは、ちゃんと仕事をして、成果を上げるということです。
ちなみに、法律事務所に事件を依頼した方ならおわかりと思いますが、一度事件を依頼すると、法律事務所からは年賀状が毎年届くと思います。届いていないとすれば、「二度と来てほしくない」「不良顧客」と考えられている可能性があります。
さて、法律事務所にも、「アクイジション・マーケティング」を重視しているところがあります。
典型的なところは、テレビ・ラジオに広告を出したり、駅や電車・地下鉄車両に広告を出したり、タウンページに大きく広告を出したり、また、インターネットのスポンサー広告を出している法律事務所です。
一般論として、こういう法律事務所は、従前の顧客を大切にしようとしないようです。メディアを利用して新規に多量の顧客を集める戦略だからです。
従前の客を大切にし、法的事務処理に満足してもらうことにより、他の法的トラブルをかかえている人に紹介してもらうという、従前の弁護士のとっているマーケティング手法を無視しています。
とりあえず、メディアによって顧客を集めれば、その顧客からの紹介は考える必要がないということですね。
メディアにより新規顧客を獲得しようとしている法律事務所の評判は、あまりよくありません。
お金にならない顧客と見ればあっさりと断り、受任したとしても、弁護士が処理するのではなく事務員に仕事を丸投げしたり、報酬を平均以上に取ったり、とりあえず、メディアで集まってきた顧客のうち、金になる顧客から最大の効率で報酬を上げるという戦略をとっているからです。
あまり、品質や価格について期待しない方が賢明かと存じます。
ただ、広告している種類の事件処理には「慣れて」いますから、丁寧だけれども「慣れていない」法律事務所より、よい結果が得られることもあります。
私が、トラブルをかかえている個人なら、かつて弁護士に依頼して、仕事ぶりがいいと満足している人が知人友人をあたってみます。