金融・経済 バックナンバー
貯蓄から投資へ
「貯蓄から投資へ」という言葉を聞いたことがありませんか。
企業が事業を行うには資金が必要になります。政府や公共団体も同じです。
資金を必要としているところに資金に余裕のある人々などが融通することが金融といわれます。家計は資金が余り、企業や政府・公共団体は資金が足らないということが一般的です。
金融には資金の流れ方によって直接金融と間接金融の2種類があります。
直接金融とは、投資家から資金が直接企業などに流れることをいいます。
企業が、株式や社債を発行して投資家に買ってもらい、事業を行うために必要な資金を得る方法です。
証券市場があり、証券会社があります。
間接金融とは、預金者から金融機関に預けられた資金を、金融機関の判断で企業などに貸し付けて資金を供与することをいいます。銀行は預金者に利息を支払います。
金融機関は、預金者に払う利子率よりも高い利子率で企業などに貸し付け、その差が銀行の収入となります。
以上、教科書的に説明されています。
ちなみに、債券や株式の「投資信託」は、直接金融です。
政府自体が「貯蓄から投資へ」というスローガンをかかげ、証券投資にかかる税制の優遇措置が実施されています。今に始まったことではなく、その昔「銀行よ、さようなら。証券よ、こんにちは」という投資信託のキャッチコピーは昭和36年、私が小学生のころのものだそうです。
確かに、他の先進国に比べ、日本の家計の貯蓄(銀行を通じた間接金融)比率は、他の先進国に比して、投資比率より大きいことは間違いなさそうです。
しかし、家計がタンス預金を決め込んでいるというのなら別ですが、直接金融も、間接金融も、家計から、企業・政府にお金が流れるという点では同様です。なぜ、直接金融なのでしょうか。
資金供与者は、リターン重視ならば、株式や社債を選択すればいいのですが、リスクも高くなります。
逆に、リスクの最小化を重視するなら、預金を選択すればよいのです。
預金の金利は上がりませんね。
経済の発展が芳しくないということが一因でしょうか。
また、銀行の預金が、企業に流れず、相当部分が国公債というかたちで保有されていることも一因でしょうか。金利を上げれば、国債の利払いも大きくなりますし、既発国債を大量に保有する銀行も、既発の国債価格の上昇で痛い目にあうからでしょう。
政府に、家計における貯蓄を、少しでも投資に回させて経済の発展につなげたいという動機があるのは間違いないでしょう。
一般論として、余剰資金により、優良会社の株式を持続ける、あるいは「ETF」(株価指数連動型投資信託)を持ち続けることができるならば、長期的に見れば、預金で運用するより高利回りで運用はできるのでしょうね。「絶対もうかる」とはいいませんが。
また、投資信託も、「法外な」信託手数料(信託手数料が高い投資信託が、高いパフォーマンスをあげているとはいえません。むしろ、何も考えない「ETF」がましな場合もあります)さえとらなければ、長期的に見れば、預金で運用するより高利回りで運用はできるのでしょうね。
家計の貯蓄が、投資に回れば、株価は上がりますし、株価が上がれば、通常、全員(空売りしている投資家を除きます)が得をします。
株を保有している人はもちろん、株式でもうければ消費の拡大が見込めますから、経済全体が上向いて、みんなが潤います。
しかし、株式といい、投資信託といい、投資にはリスクがつきものです。
家計に、多少の株価の変動は問題ないという「余剰資金」があれば別ですが、「余剰資金」でないなら、元本割れは重大問題です。
余剰資金での投資でなければ、株式相場の下落で損をした人の消費は縮小します。
どうでもいいよという「余剰資金」により投資をしている人は、完全に少数派でしょうから、株価が下がれば、消費の縮小につながりますから、経済全体が下向いて、みんなが損をします。
なお、専門家の運用する投資信託でさえ、何も考えない「ETF」がましなパフォーマンスより下回るということが往々にしてあります。
投資に関しての「専門家」のレベルは高くないようです。また、過去の運用成績を見たところで、将来のパフォーマンスまではわからないと思います。
まして、「個人投資家」は、いくら「金融経済教育を一層充実させることで「金融リテラシー」を向上させたところで、ごく一部を除いて、専門家には及びません。
また、本来、融資の専門家を有していて、預金を企業に貸出すべき銀行が、企業に貸出すよりは、預金を「国公債の購入」に充てた方が「いい」と考えているのならなおさらです。
政府が、本当に「貯蓄から投資に」ということを考えているなら、「確実なマイナスのリターン」である投信の手数料を下げるような政策をとることであり、一般の人が、安心して投資信託を購入できる基盤をつくることではないでしょうか。
その余地は十分あると思います。