本文へ移動

金融・経済 バックナンバー

一見有利な円定期

 元本保障利息年1.2%という円定期があるとします。

 ネット銀行(ソニー銀行の1.235%)や、銀行、信託銀行などのキャンペーン金利(退職金を新規に預けたらという条件がつくことがありますが、これ自体問題はありません)でこれに近いものがありますが、これは普通の定期預金です。中途解約しても、経過利息が普通預金並みに落ちるだけで、元金は保障されている通常の定期預金です。

 具体的な銀行名は書きませんが、同じ、元本保障年1.2%でも、金融商品取引法により「仕組債」と「太字」書いてある円定期預金が問題です。
 通常の定期預金1年ものの利息は0.35%程度だと思います。
 なぜ、無店舗のネット銀行や、団塊の世代の退職金を囲い込むためのキャンペーンでもないのに、他の銀行の定期預金の利息や、自行の通常の定期預金の利息が0.35%なのに、1.2%もの利息が付くのでしょうか。

 不思議ではありませんか?通常の定期預金と違う「仕組」があるのです。

 コラムを書いている時点で10年国債の利率は1.425%です。
 別に10年国債を新規に買うわけではなく既発債の利率です。
 円定期の預入期間とほぼ同じである長期国債の利回りが1.425%なので、単純に言ってしまえば、中途解約完全禁止の約定で預金を受入れ、他方で、1年後に満期のくる同額の長期国債を購入すれば、リスクヘッジをすることができます。

 10年国債は満期まで持てば、額面金額がかえってきます。しかし、途中で換金すると、長期金利の変動により、価値がさがることがあります。
 銀行としても、長期金利が高くなるなど、長期国債の価格が下がって時に、預金者に中途解約されるとたまったものではありません。かといって、預金者本人が病気やケガなどで、預金者の生計が苦しいときなどに、中途解約を「一切」認めないというのは無理でしょう。

 ということで、やむを得ない事情がある場合は、中途解約を認めますが、長期国債が下がっている場合などは元本割れしますよという契約になります。

 その程度で済んでいれば問題はありません。

 銀行が、定期預金1契約につき、長期国債をその分買うはずないですよね。そんなことしてたら、企業に貸せません。

 そのかわり、デリバティブ(金融派生商品)を利用します。

 つまり、銀行は「金利オプション」「金利スワップ」と呼ばれる「デリバティブ」取引をします。
 金利オプション、金利スワップと呼ばれるもので、『金利が上昇する方に賭ける人』と『金利が上昇しない方にかける人』が必ず存在します(というか、存在しなければ、賭けになりません。全員が「丁」にしかかけなければサイコロ賭博は成立しません)。

 デリバティブの具体的内容の説明をしろといわれても、私の能力をこえます。
 しかし、銀行は、個々の預金に、個々のデリバティブを結ぶはずもありませんから、銀行が、他のデリバティブ取引で受けた損失分も含め、中途解約違約金として多め(というか、かなり過大に)請求してくるでしょうね。
 大がかりな広告を「ばんばん」打った費用も回収されてしまいます。
 なぜ「こんなにも違約金が」と言ったところで所詮は素人、銀行の言うがままになると思われます。

 なお、この場合、1年「絶対」解約しなくてもいい余剰資金であれば、問題なく、預金してもかまいません。満期まで待てば、元金+利息×0.8が戻ってきます。
 でも、完全な余剰金ならともかく、少しでも「中途解約」の危険があるなら、似たような利率のネット銀行の方が安全ですね。


 次に、銀行のイニシャティブで満期が決まるという預金があります。
 私なら、絶対、このような預金はしません。そんな余剰資金があれば、通常の定期預金にするか、個人向け国債を購入します。

 「円定期10年。元本保証1.4%、3年目から6年目は1.5%、6年目から10年目までは1.8%」
 「繰り上がって満期日を迎える場合があります。」
 「ただし、中途解約できません。中途解約ができず、また特段の事情があって中途解約する場合は、元本割れが生じる可能性が非常に高くなります」と明記されています。

 1年目の1.4%は高金利です。
 しかし、3年後の1.5%は、どちらになっているのか疑問です。
 金利が、1.5%以上に上がっていたら、預金者は手も足も出ません。
 同じように、6年後の1.8%は、どちらになっているのか疑問です。金利が1.8%以上に上がっていたら、預金者は手も足も出ませんが、銀行は、自分の損得で、繰りあげも、継続も選択できます。
 中途解約はできません。やむを得ない事情がある場合は、中途解約を認めますが、長期国債の利率が下がっている場合などは元本割れしますよという契約になります。
 6年後の1.8%はどうでしょう。常識的に考えれば、金利はもっと高いでしょうね。仮に低くなっていれば、銀行から継続を拒否されておしまいです。
 銀行は、どうころんでも損はしないようになっています。

 将来の金利がわからない時点で、長期(銀行のイニシャティブで満期が決まる)、利率固定、中途解約不可の定期預金をすることは、金利が上がった場合の利殖(というより、目減り防止)のチャンスを失わせられることになります。
 仮に、インフレ率が10%になったらどうしますか?
 何とか、理由をつけて中途解約するのでしょうが、6年分の利息が無駄になったうえ、元金まで減るかもしれません。通常の定期預金がお得です。

 注意をしていただきたいのは「仕組み預金」と書かれていたり「中途換金不可」と書かれている円定期預金です。
通常の円定期預金は、中途解約しても利息が少なくなる程度で、元金割れにはなりませんが、中途解約禁止の円定期預金は、中途解約をすると、ほぼ元本割れとなります。
金融商品取引法により、これらは「太字で明記」されるようになりました。それまでは、明記はされていますが、細かい字で書いてあり、あまり読まないようになっていました。

  「仕組み預金」と書かれていたり「中途換金不可」と書かれているこのような円定期預金は避けた方が賢明です。
 なお、余剰資金があるのであれば、通常の定期預金にするか、個人向け国債を購入するのが有利です。
 個人向け国債は、通常の国債と異なり、金利変動によって元本割れをおこす心配がなく(ごく短期で売却した場合を除きます)、金利が上がれば利率も上がりますから、悪い商品ではありません。

TOPへ戻る