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トリビア バックナンバー 2/2

フォールト・トレランス

 「フォールト・トレランス」(fault tolerance)という言葉をご存じでしょうか。

 人間のミス、機械などの故障があるということは当然の前提として、ミスや障害があった場合にも、できれば被害をゼロにする、ゼロにできないまでも最低限の損害でくい止めるシステムのことをいいます。

 確かに、生産や売上げに結びつかない、一見無駄とも見える費用や人件費などのコストがかかることになりますが、生じる可能性のある大きな損害を考えれば、フォールト・トレランスを導入した方が、結果的には安上がりということがあります。


 まず、フェールセーフ(fail safe)という考えがあります。「システムが誤作動したり呼称をしても、安全側に制御する」ということです。

 例えば、信号機は故障すれば、全部赤になるように設計されていますし、気球に入れるガスは爆発する水素ではなく爆発しないヘリウムを入れます。
 
 個人でも、階段で転倒するときは、階段の下の方ではなく上の方に倒れようとしますし、スキーで転倒するときは谷側でなく山側に倒れようとします。
 ゴルフで左OB、右バンカーなら、よほど腕に自信のない限り、右目に打つようにしますよね。

 法律事務所でも、抗告期間など上訴期間がまちまちな場合は、最短の期間を想定して、早めに提出しますし、遠方に控訴状を送付するときは、郵便不達の場合に備えて早めに提出します。極端な場合、事務員に遠方に届けてもらう準備もしておきます。


 次に、フェイルオーバー(fail over)という考えがあります。「システムを最小限度よりも多く用意して、システムを冗長化して障害に備える」ということです。

 例えば、機長が不測の病に倒れたときなどのために、当該機体を操縦する資格を持つ副機長とともにコックピットを構成していますし、勤務者が突然の病気になったときのことを考えて代替要員を用意したり、1つのハードディスクが壊れたときに備え、複数のハードディスクを稼働させておく(二重化)ことなどです。

 個人の場合は、あまり聞きません。
 万一のとき、家族が代替するのは当然のことですよね。

 法律事務所では、弁護士が1人の事務所では、長期出張などに備えて、事件の種類に応じて、信頼できる弁護士に、いつでも依頼できるようなシステム(要は、経済的利益に応じて責任を持って払うから、代わりにやってほしいという約束を取り付けておくことですね)をとりますし、複数の弁護士がいる事務所なら、ある程度大きな事件ともなると、主任となる弁護士の他に、いつでも代替できるようにサブの弁護士を用意しておきます。


 第三に、フールプルーフ(fool proof)という考えがあります。「利用者が操作や手順を間違えても、棄権を招かないように設計する」ということです。

 例えば、オートマチックの自動車では「P」にギアを入れないとエンジンがかかりませんし、電子レンジはふたを閉めないと動きません。冷蔵庫が長期間開いたままになっているとブザーが鳴ったり、最近の浴槽は「お湯張りが終了しました」と風呂場の他、台所にも知らせてくれるものもあります。

 個人でお目にかかるのは、パソコン操作で、ファイルを一括削除する場合とか、文書の更新をする場合、確認メッセージが出ます。
 あまりに確認メッセージが出過ぎるのも考えもので、反射的に「Y」のキーを押してしまい、後悔することがあります。

  法律事務所でも、万一書類が紛失した場合に備えて、コピーをとって別保管にしたり、大がかりな事務所では、文書を、すべて「pdf」化したりしています。情報流出の危険も高まりますが、紛失よりはましという考え(fail safe)からです。

 期間の定まった上訴状などは、とりあえず、すぐに提出しておくということもします。
 上告理由書・上告受理理由書の提出期限を間違えた場合に備え、申立てをしたら、すみやかに、「追って詳細な理由書を提出する」と注記したうえで、上告理由・上告受理申立理由のエッセンスのみを記載した簡単な書面を裁判所に提出しておき、あとは、じっくり期限内に書くということもします。
 普通は、上告や上告受理申立が認容されるなど本気で思っている弁護士は少数だと思います。依頼者の「強いリクエスト」にこたえるだけですから力も入りません。
 期日をうっかり徒過してしまった場合でも、エッセンスを記載した書面が、上告理由書・上告受理理由書に早変わりして、期間内提出の要件を満たして弁護過誤にはなりません。


 いずれにしても、機械は故障しますし、人間はミスをします。ミスをしない人間は「神様」なみ、故障しない機械はありません。
 それらの場合に、損害を最小限度に押さえることが大切です。

 ちなみに、弁護士の場合は、通常、「弁護士過誤保険」(通常3億円まで。無制限という保険はありません)に加入しています。 
 当然、弁護士や事務員が、大ミスをしでかすという前提です。

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