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歌われない歌詞
わかりやすい例としては「仰げば尊し」でしょうか。
(1番)
仰げば 尊し 我が師の恩
教の庭にも はや幾年
思えば いと疾し この年月
今こそ 別れめ いざさらば
(2番)
互に睦し 日ごろの恩
別るる後にも やよ 忘るな
身を立て 名をあげ やよ 励めよ
今こそ 別れめ いざさらば
(3番)
朝夕 馴にし 学びの窓
蛍の灯火 積む白雪
忘るる 間ぞなき ゆく年月
今こそ 別れめ いざさらば
通常、2番が省略されて、1番、3番と歌われることが多いようです。
「身を立て 名をあげ」という歌詞が「立身出世至上主義」と嫌われるからです。
ただ、通常は2番も大抵知っていますね。
ドイツ国歌を考えてみましょう。
曲は、ハイドン(Joseph Haydn)作曲の「皇帝」(弦楽四重奏曲第77番)。
なお、歌詞は、August Heinrich Hoffmann von Fallerslebenが1841年に作詞し、 本来は1番から3番まであります。
(本来の1番)
Deutschland, Deutschland über alles,
über alles in der Welt,
wenn es stets zu Schutz und Trutze
brüderlich zusammenhält.
Von der Maas bis an die Memel
von der Etsch bis an den Belt,
Deutschland, Deutschland über alles,
über alles in der Welt!
(2番略)
(本来の3番)
Einigkeit und Recht und Freiheit
für das deutsche Vaterland!
Danach lasst uns alle streben
brüderlich mit Herz und Hand!
Einigkeit und Recht und Freiheit
sind des Glückes Unterpfand;
blüh' im Glanze dieses Glückes,
blühe, deutsches Vaterland
本来の1番は、「世界に冠たるドイツ」(Deutschland über alles)程度の歌詞は、どこの国でもあることで(むしろ、小さい国の方が「大」をつけたがります。ロシア、アメリカ、カナダなど「大」はつけません)、まだいいのですが、「マース川」(現在のバルト三国を流れる川)から「メーメル川」(現在のフランスを流れる川)(Von der Maas bis an die Memel)という部分が時代錯誤ということになります。なお、こんな歌詞を歌うと、ナチス礼賛、極右と思われてしまいます。
本来の2番は、省略します。
いずれにせよ歌われません。
本来の3番が、現在のドイツ連邦共和国の国歌の歌詞です。本来の3番が、唯一の歌詞となっています。
やはり「統一」「正義」「自由」というのが、民主国家ドイツにふさわしいのでしょう。
この3文字は、5マルク硬貨の回りに刻印されていました。
一高寮歌を考えてみましょう。
(1番)
嗚呼 玉杯に花うけて
緑酒に月の影宿し
治安の夢に耽りたる
栄華の巷低く見て
向ケ岡にそそり立つ
五寮の健児意気高し
(2番ないし4番略)
(5番)
行途(ゆくて)を拒むものあらば
斬りて捨つるに何かある
破邪(はじゃ)の剣を抜き持ちて
舳に立ちて我呼べば
魑魅魍魎(ちみもうりょう)も影ひそめ
通常は1番が有名ですね。
寮歌特集などでは1番しか歌われません。
東京大学のクラスの同窓会などは、1番の次に5番を歌います。
つまり、1番は「表向き」、5番は「うちわ」のみで歌う歌です。
1番だけでも「見下す」内容になって「ひんしゅく」をかう内容になっているのに、5番では、「阻止する者」を「切って捨ててしまえ」ですから、あまり表だっては歌えません。