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司法 バックナンバー 3/3

税理士は危険な仕事?

私は、上場企業の倒産申立手続きに関与した経験はありません。
 私の関与する企業の倒産手続きは、せいぜい、企業の負債が数億程度ですから(手続きをしているうちに、十億円を超えていることが判明したりはします)、上場はしていません。株主は実質身内のみで、迷惑をかけるのは、金融機関、買掛先、従業員というのが基本です。

 通常、粉飾決算をしています。
 ただ、粉飾の方法は「資産を水増しする」か「負債を計上しない」かどちらかの方法しかありません。

 もちろん、理由は、赤字決算だと、金融機関が追加の金を貸してくれない、極端な場合は実質長期の貸金を法的について「短期だから」といって引続いて貸してくれない(貸しはがし)、無理な追加担保の提供を求められるなど、ただでさえ苦しい資金繰りが、いっそう苦しくなるからです。

 どこを粉飾していたのかを聞くと、代表者、経理担当者、税理士・公認会計士に聞くと「自分でもわからなくなるような粉飾はしない」とのことで、「ここ」と「ここ」と「ここ」というふうに限定しているのが普通です。
 もちろん、税理士・公認会計士が粉飾が関与していたなどということは、口が裂けてもいえません。ですから、単純な粉飾であればあるほど気が楽なのです。複雑な粉飾を、会計の素人の経営者や経理担当者ができるとは思えませんし、管財人にも信じてもらえません。
 もちろん「あうんの呼吸」「お互い様」で、管財人も税理士・公認会計士が関与していなかったことにしてくれるのが通常です。

 資産水増しの方法としては、以下のものがあります。私が倒産手続き(破産、民事再生、営業譲渡)などに携わる案件は、複雑なことをしているわけではありません。

 1 棚卸資産(在庫)を過大に計上する。
 2 売上を架空に計上する。
   全くの架空の場合もありますし、決算期末に売れ残った商品を、返品を条件に取引先に便宜引取ってもらい、売上を水増ししている場合もあります。
 3 売上を前倒して計上する。
   取引先と「ぐる」の場合もあります。
 4 実際回収不能になっている(極端な場合は、売掛先が破産している場合もあります)売掛金をそのまま資産に残しておく。

 負債を計上しない方法としては、以下のものがあります。私が倒産手続きなどに携わる案件は、やはり、複雑なことをしているわけではありません。これは、資産水増しより少ないです。

 1 負債の存在を全く隠す。あるいは、過小に記載する。
 2 減価償却を全くしない。
 3 負債が商工ローンなど高利貸しである場合は、当然の話ながら、借受金も出さないし、まして、支払利息を経費に上げない。

 私は、健全に生きている会社については、法的トラブルの対処はしても、経営にまで口を出しません。わかることもありますが、自分に相談しないのは経営者が自分で対処可能と判断して、気付かなかったことにします。

 まあ、上場をしていないのですから、粉飾決算を見抜けなかったとの理由で損害賠償請求をされた民事裁判を提起されることは「まれ」です。金融機関の担当者は「うすうす」気付いているでしょうが、「気付かなかった」ことにするのが賢明です。
 ぎりぎり100万やそこらの黒字が2年3年続くというのは、誰が見ても不自然です。たった1年でも不自然ですね。

 でも、税理士・公認会計士は危険ですね。
 自分が見捨てたら、会社が金融機関からお金を借りられなくなって即倒産、かといって、見捨てないと自分の責任が追及される、全くの「ジレンマ」です。
 「過失」で見逃していても、裁判所は、税理士や公認会計士のこの種事件の過失認定について、医療事件と同様、専門家としての注意義務について、なまじ、裁判所は結果を先に知っているだけに、常識よりきびしい考え方をしているはないかということがあるようです。

 私の扱う程度のレベルの事件を扱う、「まともな」弁護士は「危ない橋」はわたりません。
 会社が倒産するのは経営者の問題です。
 粉飾決算をして、金融機関から金を借りたら、現実に訴追されるかどうかは別として「立派な」「詐欺」です。
 なぜ、弁護士が「詐欺」と知っていて、荷担しなければならないのでしょうか。
 弁護士のバッジや弁護士としての名誉が優先するのは当たり前、傷が深くならないうちに、まっとうな経理処理をするか、傷が浅いうちに、法的処理をしてしまうというのが正解です。従わなければ、その会社と縁を切ってしまい、他の「もうけ仕事」にとりかかればよいのです。
 もっとも、倒産手続きを依頼された段階で、実質的な資産と負債、決算報告書を見るわけですから、粉飾会計の、いわば会計の「準」「素人」である弁護士にもわかります。
 このような場合は、弁護士に責任はありませんから「粛々」と倒産手続きをすすめればよいのです。
 また、弁護士の他に、倒産手続きに関与できる職業の人はありません。
 もちろん、破産手続開始申立書、民事再生手続き開始申立書には、破産管財人の便宜のために、「粉飾」の開始時期、「粉飾」の箇所・手口、「粉飾の」金額など内容の詳細が一覧表になっています。

税理士や公認会計士は、基本的に、損な役回りですね。
 よほど度胸がすわっていないと仕事はできませんね。
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