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2012年バックナンバー

司法修習生の貸与制

平成23年10月31日をもって、司法修習生に給与を支給する給費制の延長期間が終了し、同年11月から司法修習を開始している新65期司法修習生から修習期間中の生活資金を貸与する貸与制が実施されています。

 裁判所法第67条の2は、以下のとおり定められています
「1項  最高裁判所は、司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間、司法修習生に対し、その申請により、無利息で、修習資金(司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金をいう)を貸与するものとする。
 2項  修習資金の額及び返還の期限は、最高裁判所の定めるところによる。
 3項  最高裁判所は、修習資金の貸与を受けた者が災害、傷病その他やむを得ない理由により修習資金を返還することが困難となつたときは、その返還の期限を猶予することができる。この場合においては、国の債権の管理等に関する法律の規定は、適用しない。
 4項  最高裁判所は、修習資金の貸与を受けた者が死亡又は精神若しくは身体の障害により修習資金を返還することができなくなつたときは、その修習資金の全部又は一部の返還を免除することができる。
 5項  前各項に定めるもののほか、修習資金の貸与及び返還に関し必要な事項は、最高裁判所がこれを定める。 」

 平成24年6月8日、衆議院本会議で裁判所法改正法修正案が可決されました。
 参議院でも可決成立の見込みです。
「裁判所法第67条の2第3項中「なつたとき」の下に「、又は修習資金の貸与を受けた者について修習資金を返還することが経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるとき」を加える。

 従前の修習資金の返還の猶予の条件は「災害、傷病その他やむを得ない理由により修習資金を返還することが困難となつたとき」に限られていました。
改正後の修習資金の返還の猶予の条件は「災害、傷病その他やむを得ない理由により修習資金を返還することが困難となつたとき、又は修習資金の貸与を受けた者について修習資金を返還することが経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるとき」に広がります。

 修習資金の返還の猶予の条件について、改正前は「災害、傷病その他やむを得ない理由」に限られ、「その他やむを得ない理由」は「災害、傷病」に準じる事由に限られていました。

 修習資金の返還の猶予の条件について、改正後は「災害、傷病その他やむを得ない理由」の他、「修習資金を返還することが経済的に困難である事由があるとき」が加わります。


 改正前は、修習を終えて裁判官・検察官・弁護士になった限り「災害、傷病その他やむを得ない理由」がなければ、貸与したお金くらいは返せて当然という考えであることがわかります。

 裁判官・検察官になった修習生はともかく、弁護士になった修習生は、「災害、傷病その他やむを得ない理由」がなければ「貸与したお金くらいは返せて当然」ということが言えるでしょうか。

 現実には、修習を終了しても、就職先がなく、就職浪人を続ける人もいますし、自分1人で事務所を構える人(「即独」)もいますが、事務所経営がうまく行く人はまれで、結局、廃業する人もいます。
 弁護士の請求による登録抹消(自ら廃業するということです)は、裁判官・検察官任官、任期つき行政職公務員に任官、海外留学のためなどの一時的なもの、あるいは、高齢のためという理由が多かったのですが、若い弁護士さんが、任官や留学などの「前向きな」理由を記載せず、登録抹消する人がふえています。
 どういう道を歩むのかは知りませんが、普通の会社や官公庁に、弁護士登録せず(登録すると、毎月約5万円の会費が必要です)就職しているのでしょう。

 弁護士になったから、「貸与したお金くらいは返せて当然」とはいえません。
 それをふまえた改正でしょう。

 なお、給費制・貸与制の問題については、与野党協議が続いています。附帯決議で1年間、給費制・貸与制について再検証するとなっています。
 公明党が、給費制復活に熱心で、政治情勢にもよりますが、給費制復活の可能性の方が大きいかと思われます。

 弁護士と並ぶ職業は医師でしょうが、どちらも6年の学生生活、医師は国家試験をとおれば研修医として給料はわずかですがもらっています。司法修習生は司法試験を合格しているのですから、給料をもらっても不均衡はないでしょう。

 なによりも、法曹界に優秀な人が来なくなると、司法界、ひいては日本全体が「おしまい」ということになるでしょう。
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