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2012年バックナンバー

原子力発電再稼働と地元の同意

政府は、平成24年3月16日、定期検査で運転停止中の原子力発電所の再稼働の手続きで、事前に説明して合意を得る地方自治体の範囲を、原則として原発から半径10キロメートル圏内とする方針を固めました。

 内閣府原子力安全委員会が現在、原発の防災指針で定めている「防災対策重点地域(EPZ)」は半径10キロメートルです。

 ただ、政府が今国会に提出した原子力規制庁設置関連法案が成立すれば、EPZに代わって新たに半径30キロメートル圏内を「緊急時防護措置準備区域(UPZ)」に指定し、圏内の自治体に防災計画の策定を求める方針です。

 再稼働の判断が近づいている関西電力の大飯原発3、4号機(福井県)の場合、半径30キロメートル圏には京都府と滋賀県の一部が含まれますが、半径10キロメートル圏なら福井県内だけが対象になります。

 これに対し、関西電力の八木社長は、平成24年3月16日の記者会見において、定期検査で停止中の大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)再稼働について「地元理解は福井県とおおい町から得たい」と述べ、滋賀県と協議中の原発安全協定に再稼働の判断権限を入れない方針を示しました。

 関西電力が政府に働きかけたと見るのが妥当でしょう。

 10キロメートル圏外でも事前説明を求めていた滋賀県は困惑しています。
 理由は簡単です。

 原子力発電のおかれている地方自治体には、各種の金銭が入ります。

 「電源三法」といわれる「電源開発促進税法」、「電源開発促進対策特別会計法」、「発電用施設周辺地域整備法」の交付金があります。
 福島県では年間約130億円が交付されていました。

 「核燃料税」もあります。
 7割は道県、残る3割を地元の市町村と、周辺の市町村に交付金として配分されています。
 福井県で年間約60億円です。

 その他「匿名寄附」があります。
 中途半端な金額ではなく、道県と市町村を加えると毎年何十億円という単位です。

 滋賀県には「電源三法」からの交付金は「0」、「核燃料税」も「0」、推測ですが原子力関係の「匿名寄附」も「0」でしょう。
 滋賀県と滋賀県下の市町村には、何の利益もないのです。

 滋賀県には若狭湾からの風が吹抜けます。季節にもよるでしょうが、東京電力福島第1発電所と同じような事態になれば、間違いなく滋賀県は被害を受けます。

 滋賀県には琵琶湖がありますから、淀川を通って琵琶湖の水を水源としている、京都府、大阪府、兵庫県の一部の被害は甚大なものとなるでしょう。


 原子力事故で放射性物質が放出されるなどした場合、住民の被曝を低減する防災対策を重点的に充実させる区域(EPZ)は、現行指針では原発から10キロ圏とされています。
 しかし、前記のとおり、原子力規制庁設置関連法案が成立すれば、EPZに代わって新たに半径30キロメートル圏内を「緊急時防護措置準備区域(UPZ)が設定されますし、現実に、福島第1原子力発電所では指針を超える同20キロ圏を避難区域、同20~30キロ圏を屋内退避区域とする措置が取られています。

 と考えれば、滋賀県と協議中の原発安全協定に再稼働の判断権限を入れないというのは不合理ですね。

 福井県と同県内の市町村には、原子力発電再稼働による莫大な金銭が入るとともに、地元の雇用も保全されます。
 福井県と同県内の市町村には、原子力発電再稼働に同意するメリットがあります。

 しかし、滋賀県と同県内の市町村には、原子力発電再稼働によるメリットは全くありません。
 少なくとも、現時点での原子力発電再稼働に同意はしないでしょう。

 滋賀県は、現在まで何の手も打っていなかったのですから「交渉下手」としかいいようがありませんね。
 「売手よし、買手よし、世間によし」「陰徳善事」をモットーとして大成功を納めた近江商人ですが、その子孫は「甘かった」ようです。

 もっとも、原子力発電事故によるの被害範囲が、これほど大きくなるとは気づかなかったとしても無理はありませんね。
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