2012年バックナンバー
法律事務所の経営難
ただ、弁護士業界は不況でして、親しい弁護士どおしが話をすると「最近景気どう?」「あかん」「うちもや」という話になることが多いようです。
「ぼちぼち」という弁護士さんは、少なくなりました。
もっとも、このご時世に、どんどんイソ弁を採用して、事務所を拡張している弁護士さんもいますから、本当は「ぼちぼちでんな」なのに「あきまへん」と「嘘」をついているのかも知れません。
弁護士が「もうから」なくなった理由の1つ目は、「事件数の減少」と言われています。
地方裁判所の事件はどうでしょう。
貸金や売掛金が定型的な事件でしょうが、不況の影響か、相手方が本当にお金がなく、訴訟をするだけ無駄ということが多くなりました。事件数も減っています。
交通事故は、減ってなさそうです。交通部の前の廊下は、和解期日に来た弁護士が数多く並んでいるのは同じです。
今は「ほそぼそ」となりましたが、裁判所の事件一覧に、サラ金相手の過払返還訴訟が並んでいた時期がありました。過払返還訴訟の減少が、民事の事件数の減少の最も大きな理由ということに間違いはありません。裁判所は、過払返還訴訟の統計をとっています。
破産事件は、景気が悪くなれば増加するものです。
しかし、法人はモラトリアム法により、個人は、総量規制と、サラ金やクレジット会社のキャッシングの利率が29.2%から18%になったことなどにより激減しています。
法人の破産は、一時的に減少しているだけで増えるでしょう。
個人破産は減ったままでしょう。
家庭裁判所の事件はどうでしょう。
離婚事件は増えました。
経済的に満足している夫婦は「離婚」はあまり考えないようですが、不景気になると離婚は増加する傾向にあります。「金の切れ目が何とやら」ということですが、報酬は期待できません。
相続は、もともと、統計的に多くありません。また、相続税もかからないような事件が少なくありません。
また、司法書士や行政書士が、本来扱えない仕事をしているため、安さにつられて、弁護士に依頼しなくなった依頼者が増えたとも言われています。つまり、司法書士や行政書士が、弁護士が本来すべき業務を「浸食」されているということになります。
弁護士が「もうからなく」なった理由の2つ目は、「弁護士数の増加」と言われています。
事件数が増えていないのに、弁護士数が増えれば、弁護士1人あたりの収入が減るのは当然の話です。
また、年間300人から400人しか弁護士数が減らないのに、年間1800人増えたのでは、弁護士数は、増加の一方ですね。
今、司法試験合格者の減員運動をしている弁護士さんがおられますが「手遅れ」かと思います。
弁護士業界の需要が増える見込みはなく、実質的に「ゼロサムゲーム」となっていますから、弁護士業界全員が「潤う」というのは無理で、限られたパイを、どのようにしたら自分のところが余分にとれるかということを考えた方が賢明です。
弁護士が「もうから」なくなった理由の3つ目は、「法テラスによる報酬の激減」と言われています。
法テラス以前は、法律扶助制度は、財団法人法律扶助協会が担ってきました。
例えば、財団法人法律扶助協会時代は、個人のサラ金破産など債務整理の扶助を受けられるのは、生活保護受給者か母子家庭くらいでした。
弁護士は、生活保護受給者か母子家庭の母親のため、本来の基準料金の約半額の着手金で事件を受任してきました。
法テラスは税金が入っているので「太っ腹」です。
誰が見ても「気の毒」とはお世辞にもいえない収入の人までが、法律扶助を受けられるようになりました。
本来の基準料金を支払って、自己破産など債務整理をする人は激減しました。
価格破壊ですね。
また、法テラス基準は、債務整理以外の事件についても、本来の基準料金の約半額の着手金・報酬のようです。
法テラスを利用すれば、一般事件も本来の基準料金の約半額になるなら、緩い収入要件を満たせさえすれば、着手金が準備できる人でも、法テラスを利用するようになるでしょう。
もっとも、事務員に事務の大半を任せられる債務整理と異なり、弁護士自身が、ほぼ全ての仕事をしなければならない一般事件を、法テラス基準でしてくれる弁護士さんは、かなり「時間的」「余裕」のある弁護士さんでしょう。
事件が減り、弁護士数が増え、単価が安くなれば、法律事務所の経営も苦しくなりますね。
法律事務所には、原材料費など「変動経費」が実質上なく(電話代、郵便代、コピー代が多少変わる程度)、実質、固定された「一般管理費」のみです。
つまり「売上の減少」=「利益の減少」という過酷な業種です。
イソ弁の解雇(イソ弁にとって不本意な独立)、事務員の整理解雇などが、「一般管理費」削減の有効な手段ですが、やりすぎると、従前の依頼者からは「先生の腕が落ちたから、客離れをしている」と思われかねません。
本当に「あきまへん」の弁護士にとっては苦しいところです。