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2012年バックナンバー

ヨウ素剤

内閣府原子力安全委員会の分科会は、平成24年1月12日、原子力発電から半径30キロ圏内の各家庭に、甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤を事前配布することが有効とする提言案を示しました。
 厳密には「予防防護措置区域(原子力発電5キロ圏、PAZ)については、各戸事前配布が『有効』、緊急防護措置区域(同30キロ圏、UPZ=安全委員会で導入を検討中)については、各戸事前配布が『有効だろう』」という提言案だそうです。

 現時点では、多くの地元自治体が保健所などに備蓄し、事故後に住民へ配布する仕組みですが、東京電力福島第1原子力発電事故では機能しなかった反省を踏まえたそうです。

 安定ヨウ素剤は、チェルノブイリでの原子力発電事故後に、ウクライナやベラルーシでは小児の甲状腺癌が増加したことから、投与がすすめられています。

 甲状腺はヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを作る組織で、人間は食物からヨウ素を消化・吸収し、甲状腺はヨウ素を取込んで働いています。
 食物中に十分なヨウ素があれば、甲状腺はある程度ヨウ素で満たされた状態にあります。
 逆に、食事中にあまりヨウ素がない生活をしていると、甲状腺はヨウ素欠乏状態になり、ヨウ素の吸収が上がります。

 通常のヨウ素は放射能を持っていません。
 原子力発電の爆発が起きると、放射性ヨウ素131が放出され、これが食物を通じて大量に取り込まれると、甲状腺に放射性ヨウ素131が吸収されてしまい、体内からの被ばく(内部被ばく)のため、甲状腺癌に罹患の恐れがでてしまいます。

 あらかじめ、安定ヨウ素剤が投与されていれば、放射性ヨウ素131は、すでに甲状腺が十分なヨウ素をもっているため、体内に吸収されず、そのまま排出されるというわけですね。

 なお、日本人は、ヨウ素を十分にとっています。
 こんぶ、わかめ、ひじきなどの海草・海産物に多く含まれていますから。
 ウクライナやベラルーシは、内陸国で、慢性的なヨウ素不足という事情もあったといわれています。

 話を戻しまして、現在も原子力発電周辺の自治体はヨウ素剤を備蓄していますが、原子力発電事故が起きてから配ることになっています。
 ただ、福島第1原子力発電事故では、避難区域が拡大する中で配布や服用の指示が遅れ、ほとんど活用されなかったという経緯があります。
 それなら、原子力発電近隣居住者ヨウ素剤を配布しておいて、事故があったら服用してもらおうという考えですね。
 ちなみに、放射性ヨウ素を取り込む前24時間以内、または取り込んだ直後に飲めば9割以上の抑制効果がありますが、服用が遅れるほど効果は落ちます。

 ただ、ヨウ素剤は薬事法で「劇薬」に指定され、副作用の危険性もあります。

 原子力防災指針に基づく現行基準は、甲状腺の被ばく線量が100ミリシーベルトと予測される場合に安定ヨウ素剤を服用することになっていますが、この被ばく線量を「事故後7日間で50ミリシーベルト」に厳格化します。これは、国際原子力機関(IAEA)が平成23年6月にとった措置にあわせたものです。
 なお、世界保健機関(WHO)は幼児や妊婦、授乳中の女性については、服用基準を10ミリシーベルトにするよう勧告しています。

 原子力安全委員会の現行指針では、服用対象者は40歳未満となっています。
 40歳以上の人は服用する必要はありません。
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