よもやま話 バックナンバー2/2
あるフィクション
「 年老いた夫は、ある病院で長い長い闘病生活をしていた。
といっても、完治する見込みはなく、死亡退院をまつだけ。
やはり年老いた妻が付き添っている。
夫は、持続輸液をうけているが、やはり夜中には喉がかわく。
水差しが夫の手の届く範囲内におかれている。
夫は、渇きをいやすため、渾身の力を振り絞って水差しをとろうと、手を伸ばす。
妻は、水差しで夫に水をのませることはしない。夫の水分量について、医師から輸液で十分過不足はないと言われているためであろうか。
夫の手が水差しに、かかろうとする。
妻は、水差しをひょいと動かして夫の手の届かないところに置く。
夫は、力つきて、手をだらりとさせる。
妻は、それを見て、夫の手の届くところに、水差しを置き直す。
夫は、また、水差しに手をのばそうとする。
妻が、わざと水を飲ませなくしているということを考える余裕はない。ただただ、水を飲みたい一心で手を伸ばす。
妻は、夫の手の届きそうになると水差しを移動させ、夫の力がつきると手の届くところに水差しを戻す。
こんなことを半年も続いている。
妻にとっては、若いころ、夫から暴力をさんざんふるわれていた。暴言もはかれた。浮気も一度や二度ではなかった。
妻は堪え忍んだ。
夫は、手を伸ばそうとする元気もなくなり息絶えた。
心拍数を示すモニタが平坦となり、妻はあわてたそぶりでナースコールのボタンを押す。『看護婦さん。大変です。夫が、夫が・・』
妻のささやかな復讐は終わった。」
ある過去の事件に、尾びれ、背びれをつけ、おまけに、胸びれ、腹びれをつけてみました。
一般に、結婚時に夫が妻より年齢が上であることが多く、男性の平均年齢は女性の平均年齢を大きく下回っています。
そうすると、離婚せずにいた場合、年老いた夫が妻の看護を受けるという確率が大きいわけです。
妻が老夫の生殺与奪の権限をもつことになります。
熟年離婚の申出を受けるなら「まし」でしょう。
夫は、自分が要看護状態になったときのことを考え、妻に接するのが賢明で、浮気、暴力などもってのほかのように思うのですが、いかがでしょう。