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よもやま話 バックナンバー2/2

リスクマネージメント?

週末ですから、柔らかい話題を一つ。

 「リスクマネージメント」という言葉がありますよね
 私は、幸いなことに、危機的な状況に遭遇したということは、あまりありません。

 一番印象に残っている「リスク」は、海外でのパスポート紛失でした。
 25年前のドイツ留学中に、ピサというイタリアの都市(斜塔で有名な都市です)で、パスポートの置き引きにあったことです。
 何か盗まれても、金目のものが入っていなければ、どこかから出てくるものですが、不幸なことに、使い残しのスイス・フランが2000円くらい入っていましたので、出てくる見込みもありません。
 もっとも、実質的に盗まれたのはパスポートのみ、お金もクレジットカードも無事でした。
 なお、パスポートは「公用旅券」でしたから、いかに日本のパスポートといっても、他人には使い物になりません。「公用旅券」は、あっちこっちで不審がられ、国境の入国審査で、根ほり葉ほり事情を聞かれ、番号などを日本大使館に照会のため足止めをくうことは日常茶飯事でした。
 スーツ姿で外国に行くぶんには何も問題ないんですが、日本の役人が、ラフな恰好で「うろちょろする」のは違和感があったようです。

 ドイツでパスポートを紛失しても、何の問題もありません。ボンの大使館まで徒歩10分のアパートを借りていたので、ボンの大使館で、ゆっくり再発行してもらえばいいだけの話です。もっとも、ドイツでパスポートを持って歩く必要もありません。

 しかし、ここはイタリア。ということで「どうやって、ドイツまで帰ろうか」ということになったのですが、飛行機は無理ですね。9.11前ですから、パスポートなしでも搭乗は可能でしょうが、入国審査でアウトになります。電車も同じ。現在ならシェンゲン条約がありますから、非加盟国のスイスを避けて、ドイツに戻ればいいわけで、イタリア→フランス→ドイツと戻ればパスポートは見せなくていいのですが、当時は、国境越えにはパスポートが要りました。

 ということになりますから、イタリアで再発行してもらわないとドイツに戻れません。

 再発行ですから「盗難証明書」が必要ですが、ピサの警察署の警察官が、英語もわからないというのには閉口しました。当時は「びっくり」ですが、日本の警察で、英語がわかる人がいるかどうかと考えると無理がないでしょうね。
 ここも運のいいことなのですが、昔船員をしていたという初老の方が、たまたま、警察署に遊びに来て(勤務時間内ですよ・・)、通訳してもらって、「盗難証明書」はとりあえず、確保しました。


 ピサですから、ローマの大使館に行くか、ミラノの領事館にいくか微妙なところですが、ボンの大使館に、検察庁からボンの大使館に、一等書記官として赴任している方がおられましたので、国際電話をかけたところ「ローマに知人がいて、話をつけておくから、ローマの大使館に行った方がいい」という話だったので、ローマに行きました。

 夜になっていましたが、イタリアは、当時からパスポートがないとホテルに泊まれませんでした。「パスポートが盗まれてない」というと「宿泊は無理」といわれました。大使館に電話かと思いましたが、「ダメモト」で、「盗難証明書」をみせると、宿泊できました。そのときに聞いた話では、ピサで「盗難証明書」をもらわなくても、ローマの警察でも「盗難証明書」もらえる、「ローマなら英語に堪能な警察官はいるよ」ということでした。 

 翌朝一番に、大使館に行くと、ローマの大使館員が丁寧に迎えてくれました。ボンの大使館員から連絡は受けてますということで。もっとも、裁判官というだけで、歳をを聞いていなかったらしく、27歳のラフな恰好をした私を見て、一瞬、びっくりした感じでした。
 再発行の申請書なのですが、北ベトナム・南ベトナムなどと書いてある申請書でしたので、「えらい古いですね。いつの申請書ですか」と聞くと、「公用旅券を紛失する人は珍しい。そんなに使わない。少なくとも私は初めてだ」と大使館員にいわれ、そういえばそうかと納得でした。

 大使館員は「パスポート発行には1週間かかる。1週間後に来てほしい。それでも用意できていない場合もある」と言いました。
 大使館員としては、いつも話している「紋切り型」なのでしょうが、それが、トラブルのもとでした。

 私は、ローマで観光した帰りにピサによったので、「ローマに1週間いても仕方がない」ということで、翌日早朝に、フィレンツェ、ベネチアに観光に出かけました。ないのはパスポートだけ、お金はあります。ホテルに「盗難証明書」で泊まれることは先刻ご承知でした。

 さんざん観光し、ちょうど1週間してから、大使館に行くと、「どこにいたんですか。再発行申請の翌日にパスポートができて、連絡先のホテルに電話すると、チェックアウトしてるということでしたよ」という話。ボンの大使館と、最高裁から、身元は間違いない、早くするようにとの指示が来て、異例の早さで再発行されていたそうです。
 私は、大使館員に、あなたから「パスポート発行には1週間かかる。1週間後に来てほしい。それでも用意できていない場合もあるといわれたので、ちょうど1週間後に来ました」「翌日再発行される可能性があると聞いていたら1週間も旅行しませんよ」「何でそう言ってくれなかったのですか」と反論すると、「通常、パスポートをなくすと、落ち込んで、ローマを離れる人はいないんですがねぇ」「裁判官とお話しするのは初めてですが、裁判官は冷静ですねぇ」と妙な関心をされてしまいました。

 今から考えると「若かった」ですね。
 もっとも、大事故にあったというならともかく、パスポートをなくしたくらいで落ち込んでいたのでは、きりがないようにも思います。

 なお、パスポート紛失のリスクに備え、お金は分散しておくこと、ヨーロッパ大使館の一覧表、パスポート用の写真2枚を用意しておいたこと、パスポート再発行のためには警察の「盗難証明書」が必要という知識を持っていたことが正解でした。

 リスクは、いつ、どこにあるのかわかりません。
 リスクに対処できるような準備と、心に余裕をもって行動しましょう。

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