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よもやま話 バックナンバー1/2

おくりびと

 「おくりびと」という映画がヒットしましたね。

 日本では、もともと死者を弔い、墓に埋葬する一連の儀式として、遺族や親戚が、死者を湯灌したり死に化粧を施したり、死に装束を着せたりして棺に納める伝統的慣習がありました。
 自宅ではなく病院で息を引取ることが多くなると、葬儀は葬祭業者へ依頼し、納棺の慣習も遺族や親戚ではなく、葬祭業者へ依頼するようになりました。

 あまり、死体の写真や解剖の写真を一般の人が見るということはないでしょうが、弁護士は、研修や仕事の関係で、比較的多く見ています。
 もちろん「きれいな」死体は希で、無惨なものです。刃物などによる殺傷などはまだましで、水死、焼死が特にひどいですね。
 それを、火葬場に行く前の最後の対面ができるように修復する技術は大したものだと思います。


 そういえば、弁護士も「おくりびと」をやります。法人の、破産申立代理人と破産管財人ですね。

 個人の破産は、個人が免責を得て再起を促す手続きなのですが、会社の破産は、会社の全財産を金に換え、債権者に配当する、完全な「死の儀式」です。一部を他者に包括的に譲渡する場合もありますが・・

 手続きは、申立代理人の弁護士と、管財人にわけて行われます。

 大阪地方裁判所では、私らの年齢になると、よほどの大事務所ならともかく、裁判所から破産管財人の依頼はきません。大きな破産事件は、事務体制が整った大事務所、小さい破産事件は若い人限定です。
 私も、その昔、特に独立して事務所をつくってから2、3年間、必要経費分ぐらいの管財人報酬をもらい、管財事件が仕事の過半をしめていた時期はありました。
 なつかしいですね。当時は、まだ「牧歌的」でした。
 ただ、地方に申立てると、管財人に私より年長者がなっておられることもあり、この程度の事件でと、恐縮することがあります。

 申立代理人は、昔は、荒っぽい債権者が、少しでも自分の債権を回収しようと自力救済におよぼうとするのを未然に防ぐというのが、重要な仕事の一つでした。
 最近は、力ずくで自力救済をしても、管財人にいたい目にあわされることがわかり、無駄なこと、それだけの価値がないことがわかったのか、おとなしくなりました。

 申立代理人は、会社から報酬をもらいます。
 管財人に事件を整理して、裁判所・管財人に移すべく、従業員がいるときは解雇の通告にはじまり、工場・事務所の閉鎖、印鑑や重要書類の管理、債権者の原資料にあたることも含め債権者一覧表をつくり、破産手続き準備中という連絡をして、資産の調査をして一覧表をつくります。
 資産といっても、不動産、預金、有価証券だけなら問題はないのですが、通常、売掛が結構ありますから大変です。

 本来は、破産申立代理人は「おくりびと」として「死化粧」を施すのが本来なのでしょうが、逆に、「粉飾箇所」「粉飾の理由」「本来の資産・負債」を作成します。
 粉飾などの「化粧」をあばくことになりますが、裁判所に対して、実体を告げなければ、適切な管財人も選べませんし、管財人も、とまどうだけです。

 私が債権者側で、破産記録をみたことがありますが、申立代理人は「厚化粧」(各金融期間ごとに決算報告書をつくるという粉飾。責任者である前代表取締役は、部下に責任を押しつけて逃亡)を鵜呑みにした財務内容の申立書を書き、破産管財人の弁護士さんが、途方にくれている事件がありました。
 限りなく詐欺に近く、金融機関の告訴があれば、刑事責任の追及もあり得るでしょう。

ちなみに、本来は、申立代理人は、火葬場の職人である破産管財人に、事件を引渡す「おくりびと」の「はず」だったのですが、破産管財人から、細かい仕事を押しつけられることが多くなっています。
 管財報酬が低くなったことにより、管財人の仕事の割が合わなくなっているからで、昔のように、破産申立てをすれば、債権者集会出席や、債権者追加の上申などを残すのみ、仕事は一応終わりということがなくなりました。
 従って、申立てまでの報酬だけではなく、破産開始決定後の仕事に備えて、着手金を「しっかり」とっておくことが必要になっています。

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