司法 バックナンバー 2/3
弁護士賠償責任保険
弁護士賠償責任保険は、弁護士業務に過失があり、弁護士に依頼した人などに経済的損害を与えた場合の賠償責任をカバーする保険です。
よくあるのが、上告・上告受理理由書の提出期限、控訴期限を徒過して敗訴を確定させてしまったり、破産債権の届出期限を徒過し、破産手続きによる債権回収ができなくなったことです。
わかりやすいですね。
もっとも、控訴ならともかく、上告・上告受理をしたからといって、勝訴になるということは希でしょう。少なくとも、私は、上告・上告受理をしたから逆転勝訴したとか、上告・上告受理をされたから逆転敗訴したという経験はめずらしいでしょう。1度、上告審で逆転したことがあります。
あと、物の本には以下の例が掲載されています。本当に過失かどうか怪しいものがあります。
「時効の抗弁が可能であるのに見落とし敗訴した」「類似事例に関して敗訴の判例があるにもかかわらず、勝訴すると軽信して訴訟を遂行したが敗訴した」「仮差押をすべきなのに怠り、債権回収の機会を失った」「交通事故で依頼者の過失が大きいと誤信し、和解を勧め和解が成立したがそもそもの過失認定が誤っていた」などとあります。
「時効の主張を忘れた」というのは少しお粗末ですね。少なくとも、予備的に主張できますから「とりあえず」しておくものでしょう。
ただ「類似事件の判例」のケースですが、つい最近、最高裁判所の判例が出たものならともかく、高等裁判所・地方裁判所など下級審の判決は「無視」して、最高裁判所で「けり」をつける、あるいは「適当なところで和解する」というのは十分ありえます。弁護士の裁量が広く「過誤」となるケースは希でしょう。
「仮差押さえ」のケースも、そんなに簡単に財産がわかるかどうか別ですし、保証金を積む必要があり、敗訴すれば、損害賠償責任を負うわけですから、また、破産されたら手数が全く無駄なだけなので、弁護士の裁量がひろく「過誤」となるケースは希でしょう。
また「和解」ですが、裁判上の和解なら、裁判官が関与しているので、弁護士の「過誤」うんぬんはまれですね。また、示談なら「依頼者が」「安くていいから」「すぐに金がほしい」という希望をされる方も多いです。弁護士の裁量がひろく「過誤」となるケースは希でしょう。
そんなことに、保険金が出ていたのでは、弁護士の負担する保険料は膨大なものになるでしょう。
あまり、知識のある人の説明ではありません。
なお、証拠書類、証拠物の損壊、あずかった印紙の紛失などは、特約でカバーされます。
私自身、一度弁護士賠償保険を利用したことがあります。
印紙を買いに行って、途中で自動車事故にあいそうになったこともあり(そんなに、危険の高い事故ではありません。自動車のスピードがでていませんでした)、印紙を含めて所持していたものが散乱し、丹念にさがしたのですが、10万円の印紙を紛失したことがありました。
「怪我をしなかっただけましか」「弁償しなければ仕方がないかな」とあきらめていたのですが、保険代理店の人に聞くと「弁護士賠償責任保険が使えますよ」とのことで、簡単な手続きで10万円戻ってきました。当時は、免責金額はありませんでしたし、別に、保険を使ったからといって、保険料が上がるわけではありませんでした。
もっとも、申請用紙に「依頼者の被害感情の大小」という項目があり、びっくりしました。すぐに、私個人の預金口座から10万円を出して印紙を購入し、訴状を出していますから、依頼者は、全く知らないことですね。
なお、弁護士法に規定する職務はもちろんですが、後見人・保佐人・補助人・財産管理人・清算人・検査役・管財人・整理委員・個人再生委員などの資格で行う法律事務も賠償されます。
ただ、訴訟などは、弁護士の裁量が広く、過失と判断されることは期間の徒過などを除き希なのですが、管財人の過誤は、普通は、計算ミス、配当すべき債権者の見落としなど、何の言い訳もできないものですから、管財業務をする人の保険料は高くなっています。
つまり「管財業務につき保険をかける」欄に印をすれば保険料が上乗せされ、印をしなければ、管財業務の過誤につき保険が出ません。
これは「税理士の仕事をする」「外国法を扱う」なども同様の仕組みになっています。
なお、保険契約者の故意が免責されることは、保険である以上当然のことです。
また、弁護士が、依頼者から損害賠償請求され、弁護士自身が応訴しても、その手数分に保険金は出ません。
保険を使い、他の弁護士に依頼するのが賢明です。
ちなみに、業務上の保管中・運送中の「貨紙幣類・有価証券」や、財産管理業務等で預った依頼人名義の通帳・印鑑の盗難事故は、弁護士に過失がないので、責任賠償保険は出ませんが、特約で、保険をかけることが可能ですし、かける弁護士がほとんどです。