旅・交通 バックナンバー2/2
マイル修行
「全日空○○便でご到着の△△様。羽田から伊丹行き全日空□□便の搭乗締切が迫っております。お急ぎの上、○番搭乗口にお越し下さい」
「伊丹から飛行機に乗って羽田に着いた人が、飛行機で伊丹に帰る?」「いったい何のこっちゃ」と思うのは当然です。
しかし、これは「独特」の「合理的事情」があるのです。
「マイル修行」という言葉があります。
航空会社の運営するマイレージサービスには、マイルを貯めれば航空券などに代えられるほかに、1年間に、一定距離(地球2週分)、あるいは、一定回数(50回)搭乗すれば、「多頻度顧客」となり、ボーナスマイルがつき、また、本来、ビジネスクラス以上の乗客しか入れない空港ラウンジの利用がエコノミーでも利用でき、ビジネスクラス以上でしか受けられない、手荷物扱いの優先(早くターンテーブルから出てくる)がエコノミーでも利用できるなどのメリットがあります。
「多頻度顧客」になるために、有償航空券を利用し、無意味な航空機の利用をすることを「修行」といい、「修行」する旅客を「修行僧」(女性の場合は「修行尼」)と呼びます。
短期間に多回数飛行機に乗り続け、体力と時間と金銭を消耗するなど心身や経済的苦痛をともなうことから「修行」と呼ばれます。
なお、ビジネスマン・ビジネスウーマンが、年末に、一定基準に到達するまで後一息というとき、自費で、休日を利用して「とんぼ返り」をすることも、広い意味では「修行」と呼ばれます。ただ、この場合「修行僧」「修行尼」とは呼ばれません。
距離を稼ぐなら、閑散期(北米、ヨーロッパなら冬、オーストラリアやニュージーランドなら日本の夏)を利用して、人気のない路線を行ったり来たりすれば、簡単にマイルは稼げます。
また、回数を稼ぐなら、短距離を何回も往復したり、機材繰りにあわせて何回も飛べばいいのです。
航空会社の提携・運賃の多様化・海外発券の豊富な情報を背景に、海外発券(タイのバンコクが有名です)の安いビジネスクラスを利用したり、また、外国(やはり、タイの「バーツ・ラン」が有名です)の安い航空券で、何回も何回も往復したりするなど、やや複雑な「修行」もみられるようになりました。
なお、日本の航空会社に特有の現象として、上級会員組織(日本航空のJGC≠Japan Gomans Club、全日空のSFC=Super Flyers Club)への入会を目的とした「修行」がみられます。
日本以外の航空会社の「上級会員」待遇は1年のみ(ルフトハンザなどでは2年)であるのに対し、日本航空、全日空では、1度「上級会員」になれば、「永久上級会員」となるクレジットカードの入会資格が得られ、翌年から、全く飛行機に乗らなくても、永久に上級会員(JGC、SFC)の資格を保持できるというシステムになっていますから、1年だけ、我慢して飛行機に乗続ければいいわけです。
もっとも、日本航空のJGCは、「永久」のはずが、もうすぐ「期限切れ」になりそうですが・・
「修行」自体は、誰も損をするわけではありません。
もちろん、短期間に集中して地方路線を利用する場合、離島などの生活路線が混雑し、現地に暮らす人々の移動の妨げになります。
また、地震など天災が起きて交通マヒなどのときに、「修行僧」に利用されたのではたまったものではありません。
かといって、これを防ぐ手だてはありません。
「自粛」する「客筋」の人たちではないのかもしれません。
ということで、伊丹から羽田に飛んだ人が、すぐ、羽田から伊丹に引き返すという現象が起きます。
航空機の遅延などがあった場合など、地上係員が「プレート」に名前を書き、搭乗口に優先的に誘導するということがありますから、全くの「赤恥」だと思うのですが、そんなことを考える常人には「修行」はできません。