司法 バックナンバー 1/3
司法修習生の貸与制
私の時代は、初年の基本給月額10万8600円、大都市調整手当8%(東京)、期末手当(ボーナス。6月、12月、3月の3回。合計4.9ヶ月分)、住宅手当、通勤手当などが支給されていました。「給費制」と呼ばれています。
私自身は、仕送り額が、毎月、9万円から10万円だったので(授業料半年に1回1万8000円。4年間で14万4000円は別途送金)、生活は楽になりました。
県庁職員であった父親も、家庭教師のアルバイトをして留年されるよりいいと考えて、結構な金額を送金してくれていたようです。
といっても、学生時代からの、トイレ共同、風呂は銭湯という、まかないなしの下宿屋に住んでいました。
私は、修習終了と同時に裁判官に任官したので「風当たり」は全く感じませんでしたが、弁護士になった同級生の中には、「弁護士になるのに、修習生時代に給与をもらうのはおかしい」といわれた人もあったようです。
平成16年の裁判所法改正で「貸与制」の導入が決まりました。ただ、ずっと実施が延期されてきていました。
家族や住宅の事情に応じて月18万ないし28万円を無利子で貸す仕組みで、予算は約100億円と見込まれています。
修習後、5年間は返済が猶予され、6年目から10年かけて返済することになります。もちろん、前倒しで返済することは可能です。
日本弁護士連合会は、司法試験合格までに奨学金を借りている修習生が多く、貸与制でさらに借金が必要な状態になると、「金持ちしか法律家になれなくなる」との懸念があり、「貸与制」ではなく「給費制」に法改正すべきだとの運動をしています。
私は、運動に参加はしていませんが、署名だけはしています。
最高裁判所は、すでに、修習生からの貸与の受付けを始めており、変更直前の法改正論議に困惑しています。「給費制があるにこしたことはないが、財政状況などを考慮して国会で一度決まったこと。感情的な主張をしても、国民の理解を得られない」という見方です。
最高裁判所は、日弁連に対して2度にわたって質問状を出しました。
「修習生の47%は借金がないのに、全員一律に給与を払う必要があるのか」「新人弁護士の4分の3は初年度の年収が500万円超なのに、返済は困難といえるのか」と指摘。給費制の維持が必要と主張するならば、より具体的なデータを示すよう求めています。
民主党を含めた超党派で給費制存続に向けた議員立法の動きが出ています。
もっとも、国会の状況は「見ての通り」で、そんな余裕はあるのでしょうか。
そんな折り、新司法試験に合格し、平成22年11月から司法修習生になる約2000人のうち、修習中の生活費などの「貸与」を希望したのは全体の約4分の3にあたる1587人だったことが最高裁判所のまとめでわかりました。
500人弱は申し込んでおらず、国が一律に給与を支給する「給費制」の存続をめぐる議論に影響を与えるでしょう。
経済合理的に考えれば、必要はなくとも、無利子で借りて、修習後、5年間は返済が猶予され、6年目から10年かけて返済するのですから、借りて郵便貯金や国債などで運用し、利息を手にするのが最良です。
全員、貸与を受けても不思議ではありません。
また、全体の約4分の3にあたる1587人のうちには、貸与を受ける必要がなくとも、運用のために貸与の申込みをした人がいるかも知れません。
さあ、必要のない人に給付をするということが明らかな現状で、全員に給付をする必要があるでしょうか。
給付が必要か必要でないかは「神のみぞ知る」という領域です。
ただ、しょせんは「税金」です。
他社と激しい競争をしている私企業の経費ではありません。
必要があろうがなかろうが、修習生の「給付制」を維持するのが、誰の損にもならず「お得」だと思います。
ちなみに「税金」「税金」と大きな声でいう人ほど、多額の税金を納めていないという傾向にあるようです。多額の税金を納めいる人は、概ね「おとなしく」しています。