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差支え
民事訴訟規則157条には、以下のとおり定められています。
「1項 判決書には、判決をした裁判官が署名押印しなければならない。
2項 合議体の裁判官が判決書に署名押印することに支障があるときは、他の裁判官が判決書にその事由を付記して署名押印しなければならない。」
単独で審理した裁判の判決は、判決をした裁判官が署名押印します。
宣告時ではなく、口頭弁論終結時の裁判官です。
判決書を書いたあと転勤すれば、他の裁判官が代読します。
問題は合議体です。
合議体で審理した裁判の判決は、判決をした裁判官すべてが署名押印します。
宣告時ではなく、口頭弁論終結時の裁判官すべてです。
ただ、口頭弁論終結して合議ができているならば、判決をした裁判官すべてが署名押印する必要はありません。
他の裁判官が判決書にその事由を付記して署名押印すれば足ります。
「支障があるとき」とは、どんな場合でしょう。
一番よくあるのは、転勤です。
「裁判官某は転補のため署名押印することができない」となります。「転補」が一般的ですが、「転勤」と記載されることもあります。
次は退官です。
「裁判官某は退官のため署名押印することができない」となります。
退官は、定年退官、依願退官、任期満了退官などがあります。
検察官になった場合は「転官のため署名押印することができない」と記載されることもあります。
長期出張もあります。例えば、海外留学などですね。
「裁判官某は長期出張のため署名押印することができない」となります。「海外出張のため署名押印することができない」と記載されることもあります。
死亡もあります。
「裁判官某は死亡のため署名押印することができない」となります。
病気もあります。
「裁判官某は病気療養中のため署名押印することができない」となります。
「裁判官某は『差支えのため』署名押印することができない」と記載されることがあります。
前記の、民事訴訟規則157条2項によれば「判決書にその事由を付記して署名押印しなければならない」とありますから、厳密にいえば、事由を付していないわけですから「違法」です。
ただ、かつて、最高裁判所が、重病で仕事ができなくなった最高裁判所判事について、「裁判官某は『差支えのため』署名押印することができない」と記載したことがありましたからから、下級裁判所も「まね」をするようになりました。
重病で仕事ができなくなった最高裁判所判事は、ほどなく死亡されました。
私も、裁判官をしていたとき、自分が署名押印をしていない判決があります。
「裁判官西野佳樹は転補のため署名押印することができない」があります。
「裁判官西野佳樹は長期出張のため署名押印することができない」もあります。
「裁判官西野佳樹は退官のため署名押印することができない」もあります。
たった10年間ですが、結構バラエティーに富んでいます。
普通は、転勤だけという人が多いでしょうね。
幸い「死亡のため署名押印することができない」、「『差支えのため』署名押印することができない」はなく、無事退官しています。