司法 バックナンバー 1/3
オーストラリアの国際司法裁判所への提訴
オーストラリアのラッド首相は、平成22年2月、日本とオーストラリアが2国間外交や国際捕鯨委員会(IWC)を通じて捕鯨問題を解決できない場合、次の捕鯨シーズンが始まる平成22年11月までに提訴する意向を示していました。
オーストラリアは、3年間の任期満了により、平成22年8月から平成23年4月の間に、下院全議席と上院の半数が改選される予定です。
最新の世論調査でもラッド氏支持率は、49%と初めて50%を割込んでいます。日本に比べれば高いように思われるかも知れませんが、オーストラリアでは危険水域だそうです。
内政が必ずしもうまくいっていない情勢を挽回する目的があるのかも知れません。
ただ、何を根拠に、調査捕鯨の禁止を求めるのかということになります。
普通に考えれば、日本が、実施している調査捕鯨のほとんどは南氷洋で行われているもので、オーストラリアがEEZ(排他的経済水域=exclusive economic zone)を主張している地域が含まれていますから、オーストラリアのEEZに属する南氷洋での調査捕鯨は認められないという主張でしょう。
ただ、オーストラリアが、南氷洋においてEEZを主張しているのは、オーストラリアが南氷洋に自国所有の孤島を有していて、そこから200海里というものではありません。
何と、オーストラリアは、南極大陸の一部について領有権を主張していて、そこから200海里の範囲内はオーストラリアのEEZであるという主張です。
南極条約において、条約成立前のセクター主義(先占がなくても一定の範囲で領域の取得を認めるとするという主義)に基づく領域の主張は、条約上は、否定も肯定もされているわけではありません。
そして、オーストラリアは、条約成立前のセクター主義に基づく領域の主張をしています。
ただ、南極について、どこかの国の所有権を認めるという判断を国際司法裁判所がするかどうかについては、完全に否定的でしょう。
南極について、複数の国が、条約成立前のセクター主義に基づく領域の主張している地域はいくらでもあります。
南極の土地の一部について、どこかの国の所有権を認めてしまっては、戦争になりかねません。
オーストラリアでも、感情論でものをいうのではなく、もののわかっている人は、提訴などやめた方がいいと考えているでしょう。
オーストラリアの主権が南極に及ばないと判決が出れば、日本の調査捕鯨を禁止させるどころか、逆に、オーストラリアが、現在主張している南極の土地、南氷洋のEEZエリアを否定されることになります。
たかが「調査捕鯨」ごときで、現在主張している南極の土地、南氷洋のEEZエリアを否定されるリスクを犯す政治家がいるとすれば、政治家として失格でしょう。
かといって、EEZの主張なくして、調査捕鯨を止めるという法的構成は困難です。
今回の「提訴」というのも、選挙を控えたラッド首相の「リップサービス」と考えるのが普通でしょう。
ちなみに、現時点での国際司法裁判所の所長判事は、小和田恆氏、つまり皇太子妃の父上です。