債務(借金)問題
債務・借金
会社経営者は夜逃げの前に
顧問契約を結んだわけではありませんが、その後、時々、法律相談などがあり、他の依頼者の事件の紹介もありました。
2年程度、音沙汰がないなあ程度に思っていたのですが、ある日突然、代表者が事務所に来て、うろたえた様子で「うちの会社が明日不渡りを出す」「なんとかしてほしい」とのこと。
事情を聞くと、資金繰りに行詰まり、複数の商工ローンから借入れ、システム金融という一種のヤミ金にまで手を出していて、手許に全くお金がないが何とかしてほしい、奥さんから一緒に自殺しようと言われているとのことでした。
全く縁もゆかりもない人なら、「今、忙しいので、大阪弁護士会の法律相談に行ったらいかがですか」と言うところですが、昔縁があったのと、奥さんが自殺をすると言っているとのことで、事件を受けることにしました。
当然、着手金や、裁判所への予納金が必要になるのですが、当然の話ながら、自宅などの不動産は抵当権がいっぱい、現金や預金はなし、財産といえば、売掛金くらいのものでした。
今はどうか知りませんが、商工ローンは、顧客が得意先に対して有する売掛債権を、商工ローンに譲渡するという日付白紙の債権譲渡する旨の内容証明郵便に実印をおさせて持っていることが多いようです。
不渡りが出れば、即、顧客が得意先に対して有する売掛債権を、商工ローンに譲渡する旨の内容証明郵便を発送し、顧客の得意先からの回収をはかろうとします。
会社経営者が、無責任に夜逃げをしてしまうと、商工ローンは、顧客が得意先に対して有している売掛債権を回収して、商工ローンに対する債務に充当してしまうということになります。
破産になったとき、優先的に配当を受ける権利を持つ労働者などはたまったものではありません。
ということで、通常、弁護士が、依頼者が得意先に対して有している売掛債権を信託的に譲渡を受けて、つまり、代表者に印鑑をもらって、会社名義の債権譲渡通知を内容証明郵便で出すという扱いになります。
なお、厳密にいえば、旧弁護士倫理=現弁護士職務基本規程17条(係争目的物の譲受けの禁止)に違反しているかどうかとの問題はあります。
この点については、「自由と正義」2005年5月1日発行の臨時増刊号25頁には「弁護士が倒産処理の過程において、財産の散逸を防止し、倒産処理を円滑に遂行させる目的で、倒産会社の財産(不動産や売掛債権等)を信託的に譲受けることは、弁護士の計算における譲受けではないから、本条に抵触しない」と解されています。
このケースも、会社が、弁護士に、得意先に対して有している売掛債権を信託的に譲渡するという内容証明郵便による通知を出したのですが、商工ローンは、手形・小切手の不渡り当日に、会社顧客が得意先に対して有する売掛債権を、商工ローンに譲渡する旨の内容証明郵便を発送しました。供託されてしまった売掛付もありますが、こちらが優先のと判決をもらって回収しました。
恐ろしい話ですが、商工ローンより上手(うわて)がいました。
税務署です。
倒産する会社ですから法人税の滞納はないのですが、消費税の滞納が膨大でした。税務署は、不渡りが出た日の翌朝、税務署職員が差押通知を持って、得意先を回ったようです。税務署は、差押通知をするのに裁判所の助けはいりません。税務署がなぜ得意先を知っているかというと、直近の確定申告書の売掛金の欄に得意先が書いてあるからです。
結局、弁護士への信託的譲渡通知が不渡りの出る当日に到達、不渡りの出た日の翌日に税務署の差押え、不渡りの出た日の翌々日に商工ローンからの債権譲渡通知が到達というきわどいタイミングでした。
このケースは、売掛金を回収し、弁護士報酬と実費、破産予納金をつくり、破産管財人に残余の金銭を引き渡すことができました。
当時は、労働債権よりも公租公課が優先という時代でしたので、どちらにしても、未払賃金や退職金は、破産財団からは出ませんでしたが、社会保険事務所、労働局、市町村(固定資産税と特徴市民税)は、税務署と同率の配当を得ることができました。
今は、何が何でも、労働債権より公租公課が優先ということはありません。
会社を経営している代表者は、何もせずに夜逃げをすると、商工ローンや税務署だけが得をするということもあり得ます。
夜逃げをする前に弁護士に依頼する、これが最低限の社会的責任であると思います。