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遺言・相続問題

遺産紛争と即時抗告

 遺産分割の審判があった場合、不満のある当事者は、高等裁判所に即時抗告できます。
 
 審判を受け取った日から2週間以内です。
 
 一般の民事裁判の場合は「不利益変更禁止の原則」があります。民事訴訟法304条には「第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる」と明記されています。
 
 つまり、一般の民事裁判の場合は、控訴した当事者に不利に変更し、控訴していない当事者に利益に変更することは許されません。
 
 不満ではあるが、あえて控訴をしていなかっただけで、相手が控訴するなら控訴するという当事者もいるでしょう。
 
 控訴期間の2週間が経過していればどうでしょうか。
 
 附帯控訴といって、相手方の控訴を棄却するとともに、自分に有利なように原判決を変更してもらうことができます。
 
 ただ、「附帯」控訴というくらいですから、相手が控訴を取下げてしまえば、せっかくいいところまでいっても、原判決が確定してしまいます。
 
 遺産分割審判に対する即時抗告はどうでしょう。
 
 一般民事事件の「不利益変更禁止の原則」は適用されません。家事事件手続法は、民事訴訟法304条を準用していません。
 
 つまり、相手方が家庭裁判所の審判を受入れることにしたとしても、こちらが高等裁判所に不服申立をした結果として、かえって相手方にとって家庭裁判所の審判よりも有利な決定がなされる可能性があるのです。
 
 理由は、家事事件では有利不利が明らかでないことがあることにあるからです。
 
 例えば、遺産分割の審判で、計算上は余分に相続を受けたとしても、実際使い物にならない不動産が含まれていたりして、実質的に考えれば、不利なことがあり得ます。
 
 また、面会交流の審判に対する抗告審で、月3回の宿泊なしの面会交流と、月1回の宿泊ありの面会交流と、どちらが有利でどちらが不利なのかわかりませんね。
 
 家事事件で「不利益変更禁止の原則」の適用があるとしてしまうと、即時抗告した当事者が、控訴審において、実質的に不利な決定を受けてしまった場合、収拾がとれなくなってしまいます。
 
 ですから、家事事件には「不利益変更禁止の原則」の適用がないとしてしまえば、問題はなくなります。
 
 これだけなら「本末転倒」ですね。
 
 他に、家事事件手続においては、裁判所は公益性を考慮し、後見的な立場から判断をするものであるという原則があり、抗告された以上は、高等裁判所は、有利不利にかかわらず、高等裁判所が正しいと考えた決定ができるようにしたのです。
 
 なお、婚姻費用の審判も同様、不利益変更禁止の原則は適用されません。月20万円が不服として抗告したら、相手は抗告していなかったが、月15万円に減らされてしまったということもありえます。
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