遺言・相続問題
意地訴訟-相続
「意地訴訟」は「医事訴訟」の変換ミスではありません。
通常の訴訟は、経済的にみて「損」か「得」か計算づくでなされるのが通常です。
しかし、当事者が、意地になるため、訴訟が泥沼化してお互いが損になる場合があります。
相続事件について見てみましょう。
相続というのは、通常、亡くなった方の配偶者や子の遺産分割ですから、通常、家庭裁判所の調停・審判や、まして、地方裁判所の訴訟になるのはまれのはずです(1%程度)。
事件になるのが例外で、それだけ相続人間に「不信感」が強いということでしょう。
相続事件は、主として、家庭裁判所で審理され、遺留分減殺請求訴訟など、ごく一部が、地方裁判所で審理されます。また、被相続人の財産か、相続人の財産かについても、家庭裁判所の審判に、既判力がない結果、地方裁判所で審理されることになります。
まず、遺留分減殺請求の審理について説明しましょう。
法定相続人は、兄弟姉妹を除いて、遺留分を有します。遺言をされても、勝手に自分の相続分は「0」にされません。
法定相続人は、兄弟姉妹を除いて、遺留分を有します。遺言をされても、勝手に自分の相続分は「0」にされません。
もちろん、故人の遺志として納得されればいいのですが、不満のある法定相続人は、自分の遺留分を侵害している相続人(たとえば、遺言により全財産を相続した相続人)に対し、内容証明郵便にて遺留分減殺の意思表示をします。
そして、調停が成立する見込みなら、家庭裁判所に調停を申立て、最初から調停など成立しないと考えられる場合は、いきなり地方裁判所に訴訟を提起します。
遺留分減殺請求訴訟においても、遺産の範囲と財産評価、生前贈与の有無、特別受益の範囲と評価など争点が多岐にわたることはさけられませんし、調査官による調査という手段が使えませんので、時間が必然的にかかることになります。
次に、遺産確認請求の審理について説明しましょう。
遺産確認請求の争いは、名義は相続人になっている不動産について、被相続人である親が代金を全額出しているにもかかわらず名義はある相続人になっている、被相続人が同居していたある相続人が、親の預金や株券の名義を勝手に自分のものにしたり、親の預金から勝手に引き出して自分の預金口座に入金しているとの主張などから生じます。
家庭裁判所の遺産分割の審判でも争えるのですが、既判力がない(簡単にいえば、遺産分割の審判は、後からなされた、遺産確認請求訴訟でひっくりかえってしまうということです)ので、多額の遺産の場合は、通常、訴訟が提起されます。
遺産が、不動産だけということは通常なく、預貯金、有価証券等があるのが普通なのですが、死亡前に同居していた相続人が、その立場を利用して、預貯金、有価証券等を、生前に自分の名義にすることがあるため、これらのの財産の状況に関し、多数の調査嘱託や文書送付嘱託が申し立てられる事案があります。
また、金融機関など嘱託先が、個人情報保護などを「口実」に協力的でない場合や、嘱託を拒否される場合もあります。
親子、兄弟間で「よく争うよ」と思うこともありますが、当事者同士は仲が悪くなく、調停や訴訟にならないケースでも、当事者の「配偶者」が文句をつけたため、調停や訴訟になるケースが圧倒的に多いように思います。
和解期日で、出席当事者が納得した場合でも、次の期日で「ひっくりかえす」ことも多々あり、たいてい「配偶者」がからんでます。
なお、配偶者が関与しなくても、当事者どおしで意地の張り合いになるときがあります。
なにせ、永年暮らしているわけですから、思い起こせば、忘れていた永年の不満が爆発することもあります。
「いつもお兄ちゃんのお古を着せられていた」とか「女の子だからといって、塾に行かせてもらっていないし、家庭教師もつけてもらっていなかった」などという、本来の争点にあまり関係ない話が出るのも、離婚・離縁訴訟と同じです。
基本的に、弁護士としては、ずべて「円満解決」で終わったのでは仕事にならないのですが、近親者どうしの長期間の「泥仕合」を見せつけられるのは、ストレスがたまる仕事の一つです。
「事件にはしてほしい」「しかし、泥仕合はやめて欲しい」というのが、弁護士の本音ではないでしょうか。