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2015年~2017年バックナンバー

保全異議

各新聞が、以下のように報じています。

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを命じた大津地方裁判所の仮処分決定を不服として、関西電力が同地方裁判所に申し立てた保全異議と執行停止の裁判を担当する裁判長が、仮処分決定を出した山本善彦裁判長に決まった。
 仮処分を申請した住民側の弁護団が、平成28年3月16日に明らかにした。

 「高浜原子力発電所」

 事務分配は、それぞれの裁判所の裁判官会議の議決により、あらかじめ決まっています。 ですから、裁判所すべて同じということはありません。
 異議は、同じ裁判所の別の裁判官が担当することが多いです。
 「大津地方裁判所 担当裁判官一覧」をご覧になればわかるように、大津地方裁判所本庁には、民事部が1ヶ部しかありませんから、同じ裁判長が担当することになります。
 珍しいことではなく、大津地方裁判所の他、奈良地方裁判所、和歌山地方裁判所も民事部は1ヶ部です。
 山本裁判長は着任2年未満ですから、今移動させると「えらい」ことになります。
 判断に半年そこらはかかりますね。

 ニュースでも何でもありません。
 山本善彦裁判長が転勤するか、あるいは、大津地方裁判所の民事部に部総括裁判官をもう1人増やせない以上当たり前の話です。
 理論上は、前回の合議に加わっていない単独裁判官で異議審を担当するという可能性があるかも知れませんが、現実的ではありません。

 転勤も部総括裁判官の増員も、最高裁判所が決められますが、山本善彦裁判長が着任後2年未満ということを考えれば、恣意的な人事といわれますし大津地方裁判所の民事部に部総括裁判所をもう1人増やすということは、大津地方裁判所と同規模の奈良地方裁判所、和歌山地方裁判所など、全国にいくらでもある民事部部総括裁判官が1人の多数の裁判所に、もう1人部総括を増やさないと恣意的な人事といわれます。

 民事保全法によると、仮処分は、暫定的な措置を決める民事上の手続きで、保全異議審は、当事者双方が立ち会うことができる審尋などを経なければならず、より厳格な立証によって審理されることになっています。

 仮処分は債権者(申立人)の申立のみで審理され、債務者(相手方)の主張を聞かずになされることが圧倒的に多く(債務者(相手方)の主張を聞いてしまうと、仮処分発令前に問題の物件を処分されたりして、何のための保全処分かわからなくなります)、保全異議審において、当事者双方が立ち会うことができる審尋により、債務者(相手方)の主張をはじめて聞くことができるわけですから、同一裁判官だから同じ裁判をするとは限らないということですね。

 ただ、本件のように、当事者双方が立ち会うことができる審尋をしている場合は、新しい有力な疎明資料が出るわけでもないですから、同じ結論が出る確率が高いだけのことです。

 大津地方裁判所は「部の事務を総括する裁判官が裁判長になる規則があり、民事部総括の山本裁判長が務める」と説明していると書いている新聞は勉強不足、「大津地方裁判所には民事部が一つしかなく、一般的に裁判長を務める部総括判事は山本義彦裁判長のみ」と説明していると書いている新聞が正解です。


 関西電力は「誰が担当裁判官かにかかわらず、早期の仮処分命令取り消しに向け、引き続き安全性の主張、立証に全力を尽くしていく」とコメントし、他方、住民側が「関西電力から出てきた主張、立証には的確に反論していきたい」とされていますが、普通は同じ結論が出ます。

 高浜3、4号機は今後、執行停止か異議の審理で関西電力側の主張を認める司法判断が出されない限り、再稼働はできません。
 ただ、福井地方裁判所の場合は、抗告すれば、やはり不安のある名古屋高等裁判所金沢支部にいきますが、大津地方裁判所の場合は、大阪高等裁判所で判断されることになります。

 原子力発電の再開という日本経済に大きな影響を与える高度な政治判断を要する事項について、下級裁判所の裁判官が絶対的な権限をもつという日本の司法制度によるリスクについて考えさせられるときですね。

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