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2015年~2017年バックナンバー

モンスター賃借人

 賃貸住宅で家賃滞納者を強制的に追い出す行為が問題となっています。

 家主や管理会社が、長期家賃滞納者の鍵を変えて入れなくしてしまったり、場合によっては、家具などを搬出してしまうことがあるようです。

 

 消費者契約法第10条は以下のとおり定めています。
 「 民法 、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする消費者の利益を一方的に害する行為は無効とする」

 

 賃貸借契約書に、家賃滞納をした場合に「鍵を変えられていい」、「家屋内の動産の所有権を放棄して処分されてもいい」という約定があっても同じです。

 

  全く、逆のバージョンもあります。
  ちなみに、私の取扱った事件は、すべて「逆バージョン」です。

 

  家賃の長期滞納があったからといって、裁判手続きで明渡しを求めるというのは、困難です。

  1 訴訟の提起
    弁護士費用がかかりますね。
    家賃の長期滞納は、あっさりと判決が出ますが、やはり、訴訟提起から判決まで2、3か月はかかります。
    訴訟に要する弁護士費用は大したことはありません。

  2 強制執行
    判決をとって退去してくれれば問題ありません。
    判決をとっても任意に退去しない場合は、執行官に建物明渡しの強制執行を求めることになるのですが、やはり時間と金がかかります。
    建物明渡しの強制執行は、執行官が行うのですが、実際「執行補助者」(「執行屋」と呼ばれます)に支払うお金が半端ではありません。弁護士費用などは「かわいい」ものです。

 

 もちろん、訴訟(弁護士費用は除く)にしても、強制執行にしても、賃借人に金銭請求することは可能なのですが、資力がなければ回収不能となります。

 

  金銭を貸した場合、返ってこなくとも、回収をあきらめれば、損するお金は元金と利息です。
  しかし、建物・部屋を貸すと、返還をあきらめたのでは、永久に、次の賃借人に貸せませんから、最悪、強制執行までいくことになります。

 

 損するお金は「滞納時から強制執行による明渡しまでの家賃」+「執行費用」となります。
  不良賃借人に貸してしまうと、いくら損するか「きり」がありません。

 

  悪質な賃借人になると、そういう事情を知っています。

 

 弁護士がついて明渡し請求すると、「お支払いしようにもお金がありません。出ていきますから引越し代を出してくれませんか。引越し代がないと、出ていこうにも出ていけません」と少し言葉は丁寧かも知れませんが、端的には「出ていってやるから、引越し代よこせ」ということになります。

 

 賃借人が、敗訴判決を受けても、やはり、「出ていってやるから、引越し代よこせ」となることもあります。

 

 家や部屋を借りてから、失業するとかというのなら事情はわからないでもないですが、最初から、家賃を払えないことがわかっているのに、そしらぬ顔をして借りるという悪質な事例があります。

 

 最初から、1回も家賃を支払わず、訴訟で敗訴して強制執行という時点で、「出ていってやるから、引越し代よこせ」という賃借人もいます。
  詐欺でしょうが、警察は取り合ってくれません。詐欺の立件は非常に困難です。「親戚が家賃を出してくれることになっていた」「予定がくるった」といわれれば終わりです。

 

 強制執行して、それで終わりとは限りません。
 夜逃げしておきながら、家に貴金属や高価な時計を残していた、弁償してくれと難癖をつける人もいます。

  強制執行に「執行屋」を依頼するのはそのためです。

 「執行屋」は金目のものは見逃しませんし(1円玉、5円玉を、どこからか見つけてきたりします)、廃棄するまでに写真を撮っていますから、難癖をつけられても「証拠があるならどうぞ訴訟を起こして下さい」と言えます。

 

  金銭貸借には、ブラックリストがあります。
  家屋の賃貸には、ブラックリストがありません。もちろん、保証会社はブラックリストをつくっていますが、一般の家主はアクセスできません。

 1回も家賃を払わず強制執行された賃借人が、その前の部屋でも同じ事をしていたということがわかる例もあります。

 

 防御方法は、保証会社をつける、保証人に金銭のある人をつける(ちゃんと確認しましょう。万全ではありません)くらいでしょうか。

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