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雑記帳

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「昭和」をひきずる年金制度 男女の違い、まだ必要か

 毎年4月に年金支給額の改定が行われます。

 厚生労働省は、毎年、その年に新たに受給者となる厚生年金加入者の標準的な支給額(モデル年金)を公表しています。
 モデル年金は、令和3年度は月22万496円、令和4年度は903円減の21万9593円です。

 この「モデル年金」については、過去の年金制度改正でそれぞれ計算方法などが変更されてきていますが、昭和60年改正で「男性の平均的な賃金で40年間就業した場合の老齢厚生年金+夫婦2人分の老齢基礎年金」と設定されました。
 さらに、平成16年改正では、モデル年金が現役世代の賃金に占める割合を示す「所得代替率」を算出し、所得代替率が将来にわたって50%を上回ることが法律に規定された。 いわゆる「年金百年安心プラン」です。

 そのため、モデル年金は昭和60年改正以降、同じ方法で年金給付水準を示し続けており、継続的な給付水準の変化を示す「ものさし」としての機能があります。

 夫が40年間厚生年金に加入して平均的な収入を得て、妻は40年間専業主婦である世帯を「標準的」な世帯とした上で、その世帯に支給される年金額を算出しているのですが、昭和60年の「昭和モデル」が、それをもはや「標準」と呼べるのか疑問があります。

 「昭和モデル」として最も知られているのは第3号被保険者制度です。
 専業主婦ら会社員や公務員の配偶者は保険料を納めなくても基礎年金を受給できる仕組みです。
 主婦らがパートに出ても収入が一定額以上になるまでは扶養家族として扱われ、年金保険料を納めなくてもかまいません。
 このルールの存在は扶養の範囲内に収入が収まるように就業調整する「年収の壁」ができる根本原因になっています。

 次に、「昭和モデル」として、家計を支える者が死亡した場合に残された遺族の生活を支える遺族年金にも色濃く残っています。
 子どもがいない30歳の専業主婦が会社員の夫を亡くした場合を想定します。
 すぐには難しくても、いずれ仕事を探して収入を得ようとするのが現在では一般的な行動のはずです。
 ところが年金制度の考え方はそうなっていなません。
 この女性は再婚するか籍を抜くかしない限り、遺族厚生年金を終身でもらうことができます。
 会社員の夫の月給が平均35万円だったと仮定します。
 妻が受け取る遺族厚生年金は月に約4.6万円。65歳に到達すると妻自身の基礎年金も加わり、毎月約11.1万円が終身支給されます。
 死亡時に妻が40歳以上だと中高齢寡婦加算も適用され、64歳まで約4.99万円が上乗せされます。
 昭和の時代にはこのルールも合理的でした。
 女性の会社員は結婚すると「寿退社」するのが当たり前で、夫を亡くした女性が働こうとしても、企業の正社員として再就職する道は極めて狭かったといえます。30歳以上の女性の就労環境は特に厳しく、妻が路頭に迷うのを防ぐ生活保障の役割を年金制度が担うのは妥当だったかもしれません。

 ただし、女性の就労環境は大きく変わりました。
 夫婦共働きが一般的になり、現在のモデル制定時の昭和60年に49%だった30代前半の就業率は令和4年には79%に上昇しました。
 50代後半も50%から74%に上がっている。遺族厚生年金の受給者をみても、令和3年度調査では60歳未満の妻の約8割が働いています。
 女性の就労環境が男性と同じになったわけではありません。
 既婚女性の雇用者の5割強はパートなどの非正規雇用で、男女の賃金格差も縮小傾向にあるとはいえ、なお欧米より大きいといえます。
 これが、日本人の平均賃金が上昇しない理由の一つとなっています。

 自民党内には「専業主婦が家庭を守る」という昭和の家族像を重視する価値観があります。
 この考えを改めない限り、現実に即した、年金制度の実現は困難でしょう。

 もっとも、前提となる制度を変えて、いわゆる「年金百年安心プラン」、つまり、モデル年金が現役世代の賃金に占める割合を示す「所得代替率」を算出し、所得代替率が将来にわたって50%を上回ることが法律に規定されたことを覆すという「ウルトラC」もあるかもしれません。
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