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2023年バックナンバー

雑記帳

AT1債

 令和5年3月19日、経営危機に陥ったスイス金融大手「クレディ・スイス」が、スイス政府が巨額の公的資金を投入し、やはりスイス金融大手のUBSに買収されました。

 クレディ・スイスが発行した「AT1債」約160億スイスフラン(約2.2兆円)分が「価値ゼロ」になりました。現在、AT1債が紙ベースで発行されているかどうかはわかりませんが、AT1債は突然「紙くず」となりました。
AT1債の世界の市場規模は約2750億ドル(約35兆円)に上ります。
AT1市場に警戒が強まっています。
 AT1債の世界全体の平均的な動きを示す指標(米インターコンチネンタル取引所)によりますと、令和5年3月初旬まで7~8%台だった利回りは、一時10%台に上昇した結果、債券価格は暴落しました。さらに、償還可能日に支払いを見送る銀行も出てきていて、AT1債購入者は「こんなはずでは」と思ったでしょう。

 AT1債は国際的な銀行規制に対応するために自己資本を補強する手段です。
 自己資本としての扱いを受けるために償還期限のない永久債として発行されます。
 ただ、実際は、5年後など繰上償還可能な期日を定め、償還するとともに再発行するのが一般的です。
 そのため、利回りの急上昇は銀行にとってAT1債の再発行コストの増加につながります。

 AT1債は金融機関が発行する特殊な社債で、利回りが高い分、債権者保護は手薄いとされます。
 金融機関が破綻した際の弁済順位は低く、公的支援が実施された場合、元本が減額される特約が付けられるケースがあります。減額が100%に及ぶことも明記されていて、クレディ・スイスのAT1債はこれに該当しました。

 リーマン・ショックを受け、国際的な銀行の自己資本比率に関するバーゼル規制が強化されました。
 AT1債は自己資本にカウントされるため、自己資本を増強したい金融機関は発行を増やしてきました。
 他方、低金利が長期化する中、高い利回りを求めて投資家もAT1債を積極的に買い続けてきました。

 普通の考えなら、企業が破綻したとき、優先されるのは有担保社債・債権、次に、一般社債・債権、株式は、優先順位が一番後で、「紙くず」となる可能性が高いというものでしょう。

 今回は、クレディ・スイスは、UBSにより救済合併されたため、クレディ・スイスの株主は、何らかのUBSの株式の割当を受けましたが、AT1債は「紙くず」になりました。
 それなら、クレディ・スイスの株式を持っていればよかったということですね。

 債券は株式より安全だと思っていた投資家が馬鹿を見たわけですが、減額され、減額が100%に及ぶことも明記されている以上、自己責任ということになります。
 

 日本の地銀や投資家も手を出しています。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券がクレディ・スイス・グループの永久劣後債(AT1債)を約9500億円分、国内の個人投資家などに販売していたことがわかりました。
 このようなものを買うのは、よほどの資産家ですから、一般に影響はないのでしょうが、買わされた投資家が、三菱UFJスタンレー証券との取引を止めてしまうという可能性はあります。


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