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2023年バックナンバー

雑記帳

ドイツのウクライナへの「戦車供与」

 令和5年1月25日、ショルツ・ドイツ連邦首相は、ドイツ軍の改良型「レオパルト2A6」14台(1個中隊相当)、弾薬、保守整備をウクライナに供与すると発表しました。
 ウクライナ戦車兵の訓練をドイツ国内で行い、欧州諸国に配備されているレオパルト2のウクライナへの供与も承認します。
 合わせて2個戦車大隊(1個大隊は戦車44台)を編成できる見通しです。

 冬季に入りウクライナ戦争が膠着状態となる中、戦局打開の切り札として議論されてきた戦車供与問題は一応の決着を見ました。
 しかし、西側諸国の結束の難しさが明らかになるとともに、供与をためらったドイツに対する不信感が残る結果となりました。

 レオパルト2は、昭和53年に生産が開始された第3世代の戦車ですが、その後も改良が加えられ、世界で最も強力な戦車の1つに数えられています。
 これまでに3500両が生産され、ドイツをはじめ欧州諸国を中心に世界14カ国で使用されています。
 旧ソ連製戦車の砲撃に耐えられる装甲を持っており、ロシア軍の塹壕を突破するなど威力を発揮すると見られています。
 ヨーロッパ諸国に多数配備されていることから、政治決定があれば、供与は比較的容易です。

 ショルツ首相は、ウクライナ兵器支援に関する3つの原則を挙げています。
1 ウクライナは断固として支援されねばならない
2 ドイツとNATOは戦争に引き込まれてはならない
3 (国際社会でのドイツの)単独行動はあってはならない

 日本と同様、第2次世界大戦の敗戦国であるドイツには根強い反戦平和主義があります。
 世論調査では、戦車供与への賛否はほぼ拮抗していますが、ショルツ氏としては国内の反戦世論にも配慮する必要があります。

 ショルツ氏が属する政党であるドイツ社会民主党(SPD)は、歴史的にドイツの反戦運動の担い手の1つです。党内左派は平和主義に加え、親ロシアの傾向も強く、依然として影響力があります。
 反対派の中心人物がミュッツェニヒ連邦議会院内総務で、欧州配備の米戦術核撤去や兵器輸出、国防費増額に反対してきました。
 前の国防相辞任に伴い就任したピストリウス国防相もかつて、平成26年のクリミア併合に対する対ロシア制裁の見直しについて言及したことがあります。

 SPD議員からは、戦車供与が決まれば、次は戦闘機、その次は戦闘部隊と、戦争がエスカレートする事態への懸念が表明されています。また、そうしたエスカレーションの中で、プーチン氏が核使用に踏み切る可能性も否定できません。

 ドイツは、アメリカと共同して戦車を供与すると主張しました。
 ドイツが率先して供与すると、ロシアからことさら敵視される恐れがあり、それを避けるための口実に使っていた面は否定できません。
 イギリス、ポーランド、フィンランド、フランスなどが相次いで戦車供与を表明し、「単独行動を避ける」という口実は有名無実になっていました。

 ドイツからM1エイブラムス戦車の供与を求められていたアメリカは当初、欧州に配備されていないので大西洋を運ばねばならず、ガスタービンエンジンのジェット燃料補給が難しいと消極的でした。
 しかし、最終的にはドイツの供与を促すという「軍事的判断というより政治的判断」(ARD)で、アメリカもM1エイブラムスを供与することを決断しました。

 ドイツ国内では、これまで戦車の早期供与を主張してきた連立与党の緑の党、自由民主党(FDP)、野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、ショルツ氏の決断を歓迎していますが、「もっと迅速に行うべきだった」という留保付きです。

 すでにウクライナ政府の閣僚などから、ドイツなどに配備されているトルネード戦闘機の供与を求める発言も出始めています。
 しばらくすれば、新たな兵器供与の是非をめぐる議論が浮上しそうです。
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