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2021年2022年バックナンバー

雑記帳

悪魔の証明

 「悪魔の証明」(probatio diabolica。ラテン語)という言葉をご存じでしょうか。

 通常、事実の有無の証明が問題になる場合、「ある」(積極的事実)という証明は難しいですが、「ない」(消極的事実)という証明をすることは著しく困難、あるいは不可能です。

 一般に「ない」ということを証明することを「悪魔の証明」といわれます。

 「ある」ことの証明は、特定の「あること」を一例でも証明すればすみますが、「ない」ことの証明は、能力、時間に限りある人間のできる業(わざ)ではありません。

 ですから、訴訟においては、「ある」ことの証明は、当該事実を主張する側が証明する必要があり(立証責任は自分にある)、訴訟においては、「ない」ことの証明は、当該事実を主張する側が証明する必要がない(立証責任は相手にある)とされている場合が多いです。そうでなくとも、訴訟では、実務の運用は、相当柔軟です。

 なお、訴訟ではありませんが、破産しようとする人が、自分に土地・建物などの不動産がないということの疎明をしようとしても、日本全国のすべて不動産の登記簿謄本をとることができないことは当然です。
 この場合、自分の居住している自宅の賃貸借契約書のコピーを出すことで十分と扱われています。
 自分の住んでいるところが賃貸という人が、他に不動産を所有していることは、経験則上「まれ」だからです。
 抽象的に考えれば、転勤族が、本来の自宅(自分名義の不動産)を所有しているということがありますが、申告しないと、詐欺破産罪に該当して、免責(借金が「ちゃら」になる)は受けられませんから、申告するのが通常です。
 また、兄弟や、おじおばの住んでいる家が、亡父母、亡祖父母の名義のままになっている場合などがあります。
 死を知ってから3か月経過していたら絶望的です。
 書面による遺産分割手続きがなされていなければ、遺産分割手続きをすれば、自分の相続分は要求できるということになります。

 破産しようとする人が、預金を隠していないどうかチェックするため、生活に必要不可欠な電気・ガス・電話・水道の口座引き落としとなっている口座の預金通帳(自分・配偶者名義)か、コンビニ払いのレシートの提出を求められます。
 これらが1つでも欠けているということは、預金口座を隠しているという可能性が大きいです。
 ちなみに、いわゆるオール電化住宅ならガス代のレシートは要りません。

 給与などダメージの大きい財産の仮差押さえをしようというとき、相手に、不動産がないことを疎明しなければなりません。
 これも、債務者の現住所の不動産の登記簿謄本を提出するということになります。
 他人の名義なら問題ありません。やはり、自宅が賃借で、他に土地を持っていることはまずないからです。
 「ない」ということの証明や疎明は困難ですから。

 しかし、法律の世界は、物理や数学の世界ではありません。
 完全ということは要求されません。
 「常識的に」ということですね。

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