本文へ移動

2021年2022年バックナンバー

雑記帳

最高裁判所による「評価額が著しく不適当」に該当する事例

 相続したマンションで路線価などに基づいた不動産評価が低すぎるなどとして課税した国税当局の処分の妥当性が争われた訴訟で、最高裁判所は、令和4年4月19日、国税当局の処分を適法とし、相続人側の上告を棄却しました。

 「財産評価基本通達6項(総則6項)」には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という内容が定められています。

 つまり、財産評価基本通達に基づいて適法に評価した財産でも、「著しく不適当」と国税庁長官が判断した場合には、財産評価基本通達によらずとも、異なる評価方法により財産を評価しても良いと言う内容です。
 国税庁長官の判断で評価方法を変更しても構わないという、国税当局の「伝家の宝刀」といわれていました。

 今回の訴訟で争いの舞台となったのは、東京、神奈川のマンション2棟の相続不動産です。
 第1審、第2審判決によると相続人らは平成24年、94歳で亡くなった父親からマンション2棟を相続しました。

 路線価と固定資産税評価額に基づき、2棟の評価額を計約3億3000万円と算定し、銀行からの借り入れを差し引き、相続人は相続税をゼロと申告した。
 それに対し、国税当局は独自に鑑定し、時価を約4倍の約12億7000万円と算定し、約3億円を追徴課税しました。
 相続人側がこの課税処分の取り消しを求めて起こしたのが今回の訴訟です。

 争いの発端は評価額の差でする。なぜ相続人(約3億3000万円)と国税当局(約12億000万円)で約4倍の開きが出たのでしょうか。
 理由は双方が利用した算定基準の違いです。
 相続人が用いた路線価は土地取引の目安とされる公示地価の8割とされています。
 公示地価より低い理由は「年間を通じて変動する時価の事情を考慮し安全な水準としている」(国税庁)ためです。

 しかし、今回は8割どころか4分の1となったことから、国税当局が「待った」をかけました。
 国税当局が今回使ったのが、評価額が「著しく不適当」という場合に独自に再評価できるとする例外規定です。

 例外規定は相続税法の財産評価ルールを定めた「財産評価基本通達6項」です。
 どんな評価でも一転させる力をもつことから、国税の「伝家の宝刀」とも呼ばれていることは前記のとおりです。

 あまりに威力が大きいことから国税側も使用に慎重です。
 1年に1件あるかどうかのレアケースで、大手企業の元社長や創業家の遺族が相続などで得た非上場株の評価額を否認したケースなどで使われました。

 今回は、国税庁が毎年発表している「路線価」などに基づいた評価を否定するのに使われたことが波紋を呼びました。

 国税庁は通達で、路線価を相続税を算定する基準のひとつに挙げています。
 背景は、いわゆる「マンション節税」だ。タワマン節税とも呼ばれます。
 実際の取得額より低い路線価などに基づいて財産を評価し、相続税を申告することで税額を減らす手法です

 マンションの評価額は、土地と建物が別々に計算されます。
 総戸数が多いマンションほど、各戸の土地の持分は小さくなるので、土地の評価額は小さくなります。タワーマンションならなおさらです。
 建物は、同じ専有面積であれば、低層階でも高層階でも評価額は同じですが、市場価格は高層階ほど高額なので「タワーマンションの高層階」ほど節税効果があります。

 また、都市部の路線価は急ピッチな地価の上昇に年1回の見直しが追いつかず、実勢価格を反映しないことがあります。
 地域一律のため、同じ地域内でも新しく高価なマンションなどで大きな差が出やすく、国税当局はこうした節税手法を課税の公平性の観点からかねて問題視してきました。

 最高裁判所は、令和4年4月19日の判決で、国税当局の算定方法について「路線価などによる画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合は(例外規定を用いる)合理的な理由がある」との初判断を示しました。

 その上で、本件では相続税の負担軽減を意図して不動産の購入と資金の借入れが行われ(被相続人は90歳代。マンション経営や投資ということは考えられない)、実際に相続税額がゼロになったことなどを指摘したうえ、「他の納税者との間に看過しがたい不均衡が生じ、租税負担の公平に反する」として例外規定の適用を認めました。

 例えば、同じ事をしても、被相続人が40歳代、50歳代の健康な人で、交通事故で事故死した場合には、このような結果にはならなかったでしょう。
 目的は、マンション経営や投資であり、相続の発生は全くの偶然ですから・・

 過度な不動産節税に警鐘を鳴らす司法判断といえます。
TOPへ戻る