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2020年バックナンバー

雑記帳

弁護士報酬の敗訴者負担制度

 新聞で、有名人の名誉毀損の判決がよく掲載されています。

 55万円とか、110万円とか、550万円とか、不思議と11の倍数になっています。
 
 名誉毀損による慰謝料は、裁判所は、50万円とか、100万円とか、500万円とか「きり」のいい数字の金額を認めます。
 
 なぜ、11の倍数になっているのでしょうか。
 
 原告が弁護士に支払う着手金・報酬(弁護士費用といいます)の一部について、敗訴した被告に支払いを命じているからです。
 
 そして、敗訴した被告が負担すべき、原告が弁護士に支払う弁護士費用の一部は、認容額の10%とされているからです。10%というのは、法律で決まっているわけではなく、裁判所が従前の判例に従っているためにすぎません。
 
 どのような裁判でも、裁判所が、原告が弁護士に支払う弁護士費用の一部について、敗訴した被告に支払いを命じているというわけではありません。
 
 裁判所が、原告が弁護士に支払う弁護士費用の一部について、敗訴した被告に支払いを命じる事案は、不法行為による損害賠償のみです。
 債務不履行による損害賠償、登記移転請求、土地明渡事件などは、原告が弁護士に支払う弁護士費用について、敗訴した被告に支払いを命じられることはありません。

 自分が裁判に負けた場合に、自分が支払った弁護士費用の請求できないことは当然ですが、自分が裁判に勝った場合には、自分が支払った弁護士費用の請求できることは当然のように思う人もいます。
 
 裁判で負けた方の当事者が相手方の弁護士費用まで負担しなければならない制度のことを、「敗訴者負担制度」と言います。
 
 日本では、この敗訴者負担制度は採用されていません。
 
 ですから、裁判を提起して勝訴しても、相手方に、自分の負担した弁護士費用を請求することは基本的には認められません。
 
 日本で、敗訴者負担制度の導入が検討されたこともありました。
 
 しかし、大企業相手の消費者訴訟、国や地方自治体相手の訴訟、医療機関・医師相手の医療過誤訴訟、労働訴訟などについては、被告が、優秀な弁護士を多数委任することが可能であり、大企業、国や地方公共団体、医療機関・医師などが負担する弁護士費用を負担させられるとなると、怖くて訴訟が提起できなくなります。
 
 ですから、日本では、敗訴者負担制度は導入されていません。
 
 ただ、不法行為訴訟においては、被害者が加害者に不法行為を受けたうえ、弁護士費用まで負担させられては、いくらなんでも酷ということで、一部、敗訴者負担制度が認められています。
 
 不法行為による損害賠償請求で圧倒的に多いのが、交通事故、あとよくあるのが不貞の相手方に対する損害賠償請求、新聞でよく見るのが名誉毀損による損害賠償請求(あまり事例は多くありません。私自身、扱ったことはありません)くらいです。
 
 交通事故訴訟は、もともと何円単位の端数が出ますから、10%が加わっていることがわかりませんが、不貞の相手方に対する損害賠償請求、名誉毀損による損害賠償請は、もともとの慰謝料が10万円、100万円単位ですから、10%の弁護士費用がついて、11の倍数になります。

 他国の例は、首相官邸ホームページの諸外国における弁護士報酬の敗訴者負担制度を参照してください。

 先進諸国と、かつて日本の植民地であった韓国の例が挙がっています。
 
 日本は、むしろ例外ですね。
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