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2019年バックナンバー

雑記帳

海水を飲めない理由

 海で難破したとします。
 
 水分を含んだ食べ物や飲料水がなくなりました。
 水分を補給できなくなると、脱水症状を起こして死んでしまいます。
 
 海ですから、海水があります。
 
 でも、海水を飲む「あほ」な人はいません。
 
 海水を飲むと、逆に、脱水症状を加速します。
 
 ヒトの約60%は水分で、このうちの約3分の2は、細胞内にある細胞内液として、残りの約3分の1は血液や細胞間の体液である細胞外液として存在しています。
 
 細胞内液と細胞外液とは細胞膜という半透膜を隔てて存在しています。
 半透膜は小さな粒子だけが通過できる小さな穴のあいた膜です。
 濃度の異なった2種類の液体が半透膜を隔てて、隣りに置かれていると、お互いに同じ濃度になろうとする力が働きます。
 「浸透圧」ですね。
 
 細胞内液は主としてカリウムイオンを含み、細胞外液は、食塩水とほぼ同じくナトリウムイオンと塩素イオンを含んでいます。
 
 細胞内液と細胞外液の水分は半透膜である細胞膜を通って、行き来できますが、通常はその両液の浸透圧のバランスが取れているので(濃度0.9%)、水分の行き来はありません。
 
 浸透圧を一定に保つことにより、塩分濃度はコントロールされています。
 
 海水の塩分濃度は約3.5%と、人間の体液の塩分濃度0.9%より高いため、海水を飲むと体液のナトリウム濃度が上昇します。
 
 海水の塩分が、人体の体液の塩分より濃度が高いのは、両生類やは虫類が、陸上での生活をし始めた当時の海水の塩分濃度が0.9%で、海水の塩分濃度は、それ以降、陸地から流れるミネラルにより、高くなったためと言われています。
 
 このため、海水を飲むと細胞外液の塩分濃度を下げるために、腎臓で原尿の再吸収を増やし、尿の量を減らして、細胞外液の水量を増やすことによって浸透圧を一定に保とうとします。
 
 海水を飲み続けると、さらに喉の渇きが増し、細胞外液の浸透圧がより一層高まります。
 
 細胞内液と細胞外液の浸透圧のバランスが崩れるので、細胞内にある水が細胞の外へ出ていき、細胞内は脱水状態に陥る危険な状態になります。
 細胞内が脱水状態になると、細胞の核の崩壊などを起こして細胞が壊れていきます。
 
 脳細胞が障害を受けると脳症をきたし、神経の異常、痙攣、昏睡が見られ、悪化すると死亡することもあります。
 
 なお、クジラなどの海洋性哺乳類の体液の塩分濃度は人間とほとんど同じ0.9%です。
 ただ、鯨は、海水を飲んでも、高濃度の塩を含む尿を排出することで、余分な塩分を体外に排出し、体外液の浸透圧を維持することができるようになっています。
 
 また、餌としている魚の体液の塩分濃度は、哺乳類の塩分濃度とそれほど変わらないため、海水を飲むよりは、餌から水分をとり込む方が負荷は少なく済みます。
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