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2011年バックナンバー

一人事務所

日弁連「弁護士白書」2006年版からすると、法律事務所の数と規模は以下のとおりです。

  1人事務所 8,092
  2人事務所 1,666
  3~5人事務所 51
  6~10人事務所 324
  11~20人事務所 99
  21~30人事務所 24
  31~50人事務所 7
  51~100人事務所 3
  101人以上事務所 6
   合計      10,272

 予想外に、一人事務所が多いと思われませんか。
 一般に、東京や大阪など都市部に大規模事務所が多く、地方都市には、あまり大きな事務所はありません。

 ここにきて、日本弁護士連合会が「一人事務所」に着目しだしました。
 弁護士増員のため、就職できない新人弁護士がでるからです。

 私の時代は、1年に、裁判官・検察官・弁護士になる数=司法修習生=の数は500名でした。あと数年もすれば、3000名になる予定です。
 隣接士業(司法書士・行政書士など)が、先進諸外国に比べ圧倒的に多い(むしろ、司法書士・行政書士などの仕事を弁護士がしている国があります)ということを考えれば、1年に3000人は明らかに過剰です。

 従前は、新人弁護士は、勤務弁護士として、法律事務所に雇われ、給料をもらいながら事務所の仕事をし、次第に、自分の顧客を開拓して、独立して事務所をつくる、あるいは、共同経営者となるということが、ほぼ100%当然の話でした。
 ただ、増員の結果、弁護士になっても、就職先がなく、いきなり独立するか、無給で先輩弁護士の机借りて仕事を始める新人弁護士が出てくることになりました。
 本年(平成19年)度は、無理をして、新人弁護士を、いずれかの法律事務所に「押し込んだ」ようですが、来年には反動が来ると思います。

 日本弁護士連合会は、大規模事務所にだけ頼っていては、新人弁護士の就職先を確保に限界があると判断し、雇用確保の新たなターゲットして、弁護士が1人でも、依頼者を多く持ち、経営状態が良好な事務所をターゲットにしはじめました。
 1人事務所を雇用確保の新たなターゲットにしたのは、新人を雇用することで仕事に余裕ができる上、弁護士が高齢ならそのまま事務所の「後継者」も確保でき、一石二鳥になるとする「うたい文句」です。

 しかし、法律事務所に来る事件数は、法律事務所の経営にあわせて都合良く増えるものではありません。
 固定費としてかなりの出費になる人件費については、特に弁護士が1人で運営している事務所は、慎重にならざるを得ません。

 「弁護士が1人で依頼者を多く抱え、経営状態が良好な事務所」で、イソ弁を雇用する意思があれば、誰に言われなくても、必要に応じイソ弁の雇用をしているでしょうし、1人事務所が、イソ弁を雇用しないのは「何か」理由があるはずです。
 雇用によるコスト上昇の危険を避けるという経済的理由もあるでしょうし、弁護士は、基本的に「野武士」的なところがありますから、事件は複数弁護士で担当することはあるにせよ、事務所の弁護士は自分1人でしたいし、事件について「人任せ」は「絶対嫌だ」という弁護士もいます。
 弁護士業は「慈善事業」ではありません。収入にならない仕事の負担は相応にするにしても、無理をしてまでイソ弁は雇わないでしょう。
 どこか「ピント」がずれている気がします。

 また、「弁護士が高齢ならそのまま事務所の後継者も確保でき」という点は、自分の子や娘婿らならともかく、そうでなければ「食い逃げ」=自分の顧客を引連れ独立=をされる恐れがあります。「食い逃げ」をするつもりはなくても、高齢になった弁護士と「意見が合わず」、また「心中」するのは嫌だという理由で独立し、高齢者のボス弁に見切りをつけた依頼者が勝手についてきてしまうということもありえます。

 仕事をするのが難しくなるほどの高齢になれば、従前の顧客を「手みやげ」に、他の事務所に客員弁護士として入れてもらい、「顧客」に対する対価をもらうというほうが、危険は少ないです。
 やはり、どこか「ピント」がずれている気がします。


 なお、弁護士数はいくら増やしてもいい、競争原理で淘汰されて、優秀な弁護士だけが残るというのは、あまりにも短絡的です。
 商品なら買わない、サービスが悪ければ利用しない、これは競争原理で淘汰されるべきでしょう。一度や二度の失敗など、全く問題になりません。
 弁護士は、事件について、依頼者の「生殺与奪」の権限を握りえますから、「被害者」がでてからでは「遅い」可能性があります。
 「医師」は命にかかわり、「弁護士」は命にはかかわりませんが、場合によっては、人の「一生」を左右することもありえます。ですから、医師の国家試験より、司法試験の方が難しいくらいだったのではないでしょうか。
 また、病院・診療所には、通常、自然治癒力で治る風邪や腹痛などでいきますから、ミスをしても、勝手に治ってしまいます。しかし、弁護士に依頼するのは、普通の人は多くて一生に一度、人生最大の買物であるマイホームを買うより少ないかもしれません。一生に一度の弁護士が「すか」だと、悔やんでも悔やみ切れません。果物や野菜を買う、散髪をするなど、一度のダメージが少ないのなら淘汰に問題がないのと、大違いです。

 なお、医師会は、政治力のある「圧力団体」となりえますが、弁護士会は、「圧力団体」になるほどの政治力などありません。
 というか、「ばらばら」なんですね。

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