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2018年バックナンバー

雑記帳

海外でのパスポートの紛失

 私は、海外でパスポートを紛失し、再発行してもらったことがあります。
 
 1983年(昭和58年)夏のことです。
 私は、西ドイツに留学中で、首都ボンに住んでいました。
 その間に、イタリア旅行に行きました。
 
 電車でいける距離にあります。電車で行きました。
 
 ローマで5日ほど観光し、帰りに、ピサ(斜塔で有名なところです)パスポート入りの鞄の置引きにあいました。
 
 現在なら、イタリアからスイス、スイスからドイツと電車で行くのにパスポートは必要ありません。
 シェンゲン協定といって、シェンゲン協定内の移動にパスポートは不要です。
 
 当時は無理でした。
 国境の入国審査でひっかかります。
 
 ということは、現地にある日本の大使館や領事館でパスポート再申請の手続きをする必要があります。
 
 当然、留学中で帰国するわけにいきませんから、新しいパスポートを申請することになります。
 
 「政府の命により出張」と記載されている公用旅券ですから、有効期限は期限は帰国まで、印紙不要など、通常のパスポートと異なる点は一部ありますが、ほぼ一般のパスポートと同じです。
 
 再発行手続きは、まず、地元警察で、盗難証明書を発行してもらう必要があります。
 
 イタリアの田舎ですから、警察官は英語ができません。そのうち、昔船乗りをしていた初老の男性が、ピサ警察に遊びに来たということで、通訳してもらって、盗難証明書を取得しました。
 
 次は、ローマの日本大使館に電話連絡です。
 パスポート番号と発行日はメモしています。
 
 よくあることなのか、ローマの写真館で写真をとってもらい2枚持ってきてほしいとのこと、また、英語が通じる写真館を教えてもらいました。
 
 イタリアのホテルは、パスポートの提示なしに宿泊させてもらえません。盗難証明書があれば、宿泊できるとのことでした。
 ボンの大使館にも、盗難にあったと連絡しておきました。
 
 翌日、ローマの日本大使館に行って、再発行手続きを依頼しました。
 
 再発行申請手続書に「北ベトナム」「南ベトナム」という記載があったので「古い用紙を大切に使っているんですね」と言うと、「公用旅券を紛失する人は多くありませんからね」と言われました。
 
 手続きがおわって、いつ新しいパスポートがもらえますかと聞くと「最低1週間かかります。来週の〇曜日〇日に、電話して下さい」と言われました。
 
 5日間ローマに滞在していますから、1週間を利用して、フィレンツェとベネチアを旅行することにしました。現金の盗難はありません。小切手帳を持っていて、お金はあります。また、イタリアの鉄道パスは有効期間2週間のもので1週間残っていました。
 
 指定された「1週間後の〇曜日」にローマに戻り、夕方、電話しました。
 
 大使館職員は「どこに行っていたんですか」「公用旅券なので電信を利用するなど手続きを急いだところ、翌日再発行されました」「再発行の手続ができたとホテルに連絡すると、既にチェックアウト済みでした」「明日、とりに来て下さい」と言いました。
 
 翌日、大使館にパスポートを受取りにいきました。
 
 大使館職員が、なぜ、申請日に、ローマを離れて、フィレンツェとベネチアに旅行したのですかと聞きますから「5日間ローマに滞在して、ドイツに帰る途中にパスポートを置引きされたと最初に言っています。ローマに滞在するのは時間の無駄ですから」と答えました。
 
 なぜ、途中で、電話しなかったのかとの問いはありません。
 「来週の〇曜日〇日に、電話して下さい」と言ったことは、他ならぬ大使館員が覚えています。
 
 公用旅券ですから、印紙は要りません。電信通信費だけを負担しました。
 マルクで慣れてる私にリラ建てで言われたので、数字の大きさに驚いたのですが、日本円で1200円くらいでした。
 
 大使館員は、私が帰るとき「裁判官は度胸があるのですね」「普通はパスポートを紛失すると、落込んでローマのホテルでふさぎ込む人が多いんですよ」と感心しながら言いました。
 パスポートを紛失して、再発行までの期間を利用して、イタリアを観光旅行する人は、その大使館員にとって、はじめてだったそうです。
 
 私は「日本に住んでいるのではなく、ドイツに住んでいますから、そんなに違いはありませんよ」「どうせ電車で、航空券の買直しもないし」「前向きに考えるのが精神衛生のためにいいですよ」とで答え「おおきに」といって、ローマ・テルミニ駅に向かいました。
 
 もちろん、当時、携帯電話はありません。
 あれば、かかってきますよね。
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