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2018年バックナンバー

雑記帳

あるフィクション

 「 年老いた夫は、ある病院で長い長い闘病生活をしていた。
 
  といっても、完治する見込みはなく、死亡退院をまつだけ。
 
  やはり年老いた妻が付き添っている。
 
 夫は、持続輸液をうけているが、やはり夜中には喉がかわく。
 
  水差しが夫の手の届く範囲内におかれている。
 
  夫は、渇きをいやすため、渾身の力を振り絞って水差しをとろうと、手を伸ばす。
 
  妻は、水差しで夫に水をのませることはしない。夫の水分量について、医師から輸液で十分過不足はないと言われているためであろうか。
 
  夫の手が水差しに、かかろうとする。
  妻は、水差しをひょいと動かして夫の手の届かないところに置く。
 
  夫は、力つきて、手をだらりとさせる。
  妻は、それを見て、夫の手の届くところに、水差しを置き直す。
 
  夫は、また、水差しに手をのばそうとする。
  妻が、わざと水を飲ませなくしているということを考える余裕はない。ただただ、水を飲みたい一心で手を伸ばす。
  妻は、夫の手の届きそうになると水差しを移動させ、夫の力がつきると手の届くところに水差しを戻す。
 
  こんなことが半年も続いている。
 
 妻にとっては、若いころ、夫から暴力をさんざんふるわれていた。暴言もはかれた。浮気も一度や二度ではなかった。
 
  妻は堪え忍んだ。
 
 夫は、手を伸ばそうとする元気もなくなり息絶えた。
 
  心拍数を示すモニタが平坦となり、妻はあわてたそぶりでナースコールのボタンを押す。『看護婦さん。大変です。夫が、夫が・・』
 
 妻のささやかな復讐は終わった。」
 
  ある過去の事件に、尾びれ、背びれをつけ、おまけに、胸びれ、腹びれをつけてみました。
 
  一般に、結婚時に夫が妻より年齢が上であることが多く、男性の平均年齢は女性の平均年齢を大きく下回っています。
 
  そうすると、離婚せずにいた場合、年老いた夫が妻の看護を受けるという確率が大きいわけです。
 
  妻が老夫の生殺与奪の権限をもつことになります。
 
  熟年離婚の申出を受けるなら「まし」でしょう。
 
 夫は、自分が要看護状態になったときのことを考え、妻に接するのが賢明で、浮気、暴力などもってのほかのように思うのですが、いかがでしょう。
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