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2018年バックナンバー

雑記帳

新聞販売店主はなぜ自殺したか

 文藝春秋・平成30年3月号・新聞販売店主はなぜ自殺したか

--- 引用開始---

 

 2017年末、東京中心部のオフィス街を騒然とさせる出来事が発生した。東京都千代田区の日本経済新聞社東京本社ビルのトイレで火災が発生し、男性1人が亡くなったのだ。火災の1週間後、警視庁丸の内署は男性の身元を発表。亡くなる1カ月ほど前まで東京都練馬区で日経新聞の販売所長をしていた水野辰亮さん(56)だった。焼身自殺の可能性が高いという。水野さんの死は全国津々浦々に張り巡らされた新聞販売網に衝撃を与えた。こんな死に方をする人がついに出たか――販売店主らはこう受け止めている。

 

 日経新聞は2015年に英国の有力経済紙「フィナンシャル・タイムズ」を約1600億円で買収し、世間をあっと言わせた。

 

 だが、この買収劇の裏で日経新聞を扱う新聞販売店主らは、「そんな金があるなら『押し紙』を減らせ」と不満を募らせていた。

 

 「押し紙」とは、新聞を発行する本社が読者の数を多く超える部数の新聞を、販売店に買い取らせることである。

 

 「近年、日経新聞も読者離れが進み、販売店に押し紙が増えている。日経新聞は高価格なので、読者が付けば販売店の利益は大きい。しかし、読者が去って押し紙が増えると、日経新聞社に払う新聞原価が高い分、販売店の損害も大きい」(販売店事情に詳しい全国紙関係者)

 

 他紙に比べて元々高価格な日経新聞は2017年11月1日、さらに価格を上げた。月4509円(朝夕刊セット)の購読料を一気に月4900円にしたのだ。

 

 この値上げの真相は、業界ではもっぱら「押し紙を25万部ほど減らすため」と言われている。販売店からの突き上げが無視できないところまで来たということだろう。公表発行部数は一気に減るものの、表向き「値上げで読者が減った」という理由は立つ。値上げ前、日経新聞社の販売担当社員は販売店を訪問し、5部や10部と僅かではあるが、押し紙の減数を伝えていた。

 

 だが、その程度の減数は焼け石に水で、販売店が苦しいことには代わりはない。そんな最中に水野さんの死は起こった。多くの新聞販売店関係者はこう推し測る。本社に対して「抗議の自殺」を遂げたのだ、と(日経新聞社広報室は〈亡くなられた元店主の男性は、当社の取引先の新聞販売店を長きにわたって経営されており、このような事態になったことは誠に残念であり、ご冥福をお祈り申し上げます〉とし、〈警察の捜査が続いていることもあり、憶測に基づくコメントは差し控えさせていただきます〉と回答した)。

 

 日本海に面した山形県庄内地方。冬は深い雪に覆われ、厳しい気候にさらされるため、この地域の新聞配達の苦労は並大抵ではない。

 

 2014年7月、この地で読売新聞の販売店主A氏が自ら命を絶った。遺族を訪ねたが、「お話しすることはありません」と絞り出すような声が返って来るだけだった。A氏を知る販売店主は「経営難で従業員に給料を払えなくなっていると聞いていたが、まさか自殺してしまうとは・・・。同じ苦労をしている仲間として、彼がそこまで困っているのに気付いてあげられなくて申し訳ない」と悔やむ。

 

 当時、読売新聞社は山形県内で販売店主を廃業させて新しい販売店主に引き継ぐ「販売網の再編」を積極的に行っていたという。

 

 「経営者が変わって新店になった時は本社(新聞社)からまとまった補助金が販売店に支給され、販売店はそれを軍資金に『セールスチーム』を雇う。セールスチームを投入すると確かに一時的に部数が増えるので、本社の担当員(販売局社員。担当エリアを持つのでこう呼ばれる)は入れたがるんです」(同前)

 

 セールスチームは、かつて「拡張団」と呼ばれていた要員で、各家庭を戸別訪問し魅力的な景品を提示するなどして新聞購読契約を獲得する営業専門部隊である。だが、彼らが集めるのは景品に釣られて契約する読者なので、契約期限が切れると購読を止めるパターンが多く、結局、部数はガタッと落ちてしまう。

 

 「販売店に体力が無い現在、セールスチームの投入は販売店にメリットがありません。報酬は歩合制なので、半端じゃない経費がかかるからです。しかし本社の担当員は一時的であっても部数増が自分の実績になるので、販売店が渋ったら、少々強引に店主を変えてでも、本社の補助金でセールスを入れようとする傾向がある。Aさんの店はセールスなどの販売促進費がかさみ、資金繰りが追い詰められて借金で回していると噂されていました。Aさんは優しい性格で本社とケンカするタイプではなかった。それにとても責任感の強い人だった。経営の苦しさから逃げたんじゃない。自分の生命保険で従業員の給料を払い、借金を返そうとしたんだと思います」(同前)

 

 読売新聞グループ本社広報部は、〈(A氏は)新聞販売店の経営を続けていく意向を持たれていたと承っております〉とした上で、〈とはいえ、A氏が亡くなられたことは大変残念であり、誠に悲しいことです。当社に至らなかったところはなかったのか、防ぐことはできなかったのか、このような出来事が再び起きないよう原因の解明を続けております〉との見解を示した。

 

 朝日新聞では、2014年9月に群馬県の販売店主B氏、2017年4月に東京都内の販売店主C氏が自殺している。

 

 B氏は30代の若さだった。群馬県の新聞販売関係者は「自宅で首を吊ったと聞いている。本社はB氏を若手のモデル店主に育てようとしていたようで、目をかける一方で要求も厳しかったようだ」と語る。C氏を知る朝日新聞関係者は「本当に腰が低い謙虚な人だった。本社に言いたいことが言えず、行き詰ってしまったのではないか」と明かす。

 

 いずれも真面目な販売店主の悲劇だ。2人の死について朝日新聞社に問い合わせたが、〈故人のプライバシーに関わりますので、弊社としてはお答えする立場にありません〉(広報部)としか回答しなかった。

 

 2010年代に入ると折り込み広告の減少が深刻になり、販売店経営が苦しいD氏は廃業を決意したが、毎日新聞社の担当員から「補助金を増やすので続けてほしい」と引き止められたという。しかし一向に補助金が増額されず、怒ったD氏は弁護士を通じて毎日新聞社と交渉し、D氏の言い分が認められる形で和解して販売店を廃業した。

 

 D氏が自殺したのはそれから約半年後のことだった。弟は「離婚した兄に妻はおらず、遺書もなく自殺の真相は分からない。販売店の他にレストランなども経営していたのでそれらが不調だったのかもしれない」と推し量る。

 

 弟が新聞社を許せないのは、D氏の葬式の際の出来事が原因だ。

 

 「兄が死んだことを毎日新聞社に伝えると、販売局社員が『元販売店主の葬儀には何かする決まりになっていないので、毎日新聞社としては何もしません』と返答して来ました」

 

 D氏の販売店は日経新聞も扱っていたので、弟は日経新聞社にも連絡した。その後まもなくして日経新聞社幹部からかかってきた電話の内容に耳を疑った。

 

《毎日新聞社から「Dさんは楯突いて辞めた人間なので、我が社は葬式に行かない。日経新聞社も(葬式に)行ってもらっては困る」と言われた。申し訳ないが、お兄さんのお葬式には日経新聞社の看板を下ろして個人として行く》

 

 その後、日経新聞社の幹部が葬式に出席したことが毎日新聞社に伝わったらしく、日経新聞社幹部は弟に改めてこう伝えてきたという。

 

《毎日新聞社が「葬式に行くなと言ったのに、なぜ行ったんだ。恥をかかせる気か」と言ってきた》

 

 弟は怒りを吐露する。

 

「毎日新聞社はいったい何様のつもりなのでしょうか。20年も毎日新聞の販売店をやって来て、最後は弔電もなければ献花もない。村八分よりひどいし、他社の人間が葬儀に行くのも止めさせようとするなんて死者に鞭打つような行為です」

 

 D氏について毎日新聞社に問い合わせると、社長室広報担当が〈元店主の死去の場合、葬儀参列や弔電・献花の対応はケースバイケースです〉と回答した。

 

--- 引用終了---

 

 新聞購読数の下降は止めようがありませんね。

 日本には、新聞の宅配(定期購読)制度がありますから、惰性で新聞を読んでいるという人も多いでしょう。
  新聞の宅配(定期購読)制度がなくなれば、新聞の部数はがた落ちでしょうね。

 

 現実に、若い人は新聞を読まなくなりました。ネットで十分です。

 

 ちなみに、新聞の宅配(定期購読)は、日本独自のものではありません。

 私は、留学中「General-Anzeiger」というBonnの地方紙を宅配(定期購読)していました。
 

 

 

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