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司法 バックナンバー 1/3

キセルと犯罪

キセルは何罪になるのでしょうか。

 不正乗車を「キセル」と呼ぶ理由ですが、「両側」にしか「金」がかかっていないとの説が一般的です。
 最低区間の切符(お金がかかっています)を購入して入場し、途中には金をかけず、定期券(お金がかかっています)などで出場するのが、典型的な手口でした。

 ちなみに、平家物語に登場する薩摩守平忠度(さつまのかみ・たいらのただのり)から、俗語で電車などのただ乗り(無賃乗車)のことを、「薩摩守」と呼びます。

 自動改札の普及で、入場の際、電車で紙の切符に鋏をいれてもらったり、スタンプを押してもらうことはなくなりました。
 自動改札の場合、定期券に入鋏記録(入場記録)がないと、定期券で出ようとしても出られません。

 駅員の改札を受ければ詐欺罪です。

 刑法246条には、以下の定めがあります。
 「1項 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
  2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする」
 現実に物をだまし取るわけではなく、運賃・料金を免れるわけですから、刑法246条2項の詐欺利得罪にあたります。法律家は、通常「2項詐欺罪」と呼びます。
 これは、駅員をだまして、運賃・料金を免れるからです。

 これに対して、鉄道営業法での処罰しかできない場合があります。

 鉄道営業法29条には以下の定めがあります。なお、罰金等臨時措置法で「50円」は「2万円」になります。
 「 鉄道係員ノ許諾ヲ受ケスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ50円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
  一 有効ナ乗車券ナクシテ乗車シタルトキ」
 無人駅からは行って無人駅から出たのでは、駅員の関与がありません。
 有人駅から乗車しても、「途中で無人駅で出ることにした」と言われれば、反論の仕様がありません。
 駅員から改札を受けた場合にだませば詐欺でしょうが、無人駅ですから、改札にくるほどのヒマはないでしょう。

 問題は自動改札ですね。
 「駅員」を「騙した」かどうかが問題です。
 入場記録がないため自動改札機からでられず、「紛失した」と騙そうとすれば詐欺・詐欺未遂罪ですね。
 子供用の切符ででようとして、駅員にとがめられ、騙そうとすれば詐欺・詐欺未遂罪ですね。
 駅員の関与がないときは、詐欺罪ではなく、鉄道営業法違反の罪が成立するというのが、私の意見です。
 これは、永遠の議論のテーマだと思います。詐欺罪で起訴されることはまれですし、最高裁判所まで争われることは考えにくいですから、「ケリ」がつきません。

 まちがいないのは、いずれにせよ起訴されれば「前科」がつくことです。


 ちなみに、不正乗車をすると3倍の運賃・料金を取られることは法的に間違いありません。
 旅客営業規則264条には、以下のとおり定められています。
「 旅客が、次の各号の1に該当する場合は、当該旅客の乗車駅からの区間に対する普通
旅客運賃と、その2倍に相当する額の増運賃とをあわせ収受する。
 係員の承諾を受けず、乗車券を所持しないで乗車したとき」

 定期券でキセルをしていると、何十万円の請求を受けます。
 ちなみに、ドイツなどでは、地下鉄や近郊電車は改札・検札がないことから、50倍ほどの「罰金」をとられます。

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