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トリビア バックナンバー 1/2

悪魔の証明

「悪魔の証明」(probatio diabolica。ラテン語)という言葉をご存じでしょうか。

 通常、事実の有無の証明が問題になる場合、「ある」(積極的事実)という証明は難しいですが、「ない」(消極的事実)という証明をすることは著しく困難、あるいは不可能です。
 一般に「ない」ということを証明することを「悪魔の証明」といわれます。

 「ある」ことの証明は、特定の「あること」を一例でも証明すればすみますが、「ない」ことの証明は、能力、時間に限りある人間のできる業(わざ)ではありません。

 ですから、訴訟においては、「ある」ことの証明は、当該事実を主張する側が証明する必要があり(立証責任は自分にある)、訴訟においては、「ない」ことの証明は、当該事実を主張する側が証明する必要がない(立証責任は相手にある)とされている場合が多いです。

 もっとも、全部が全部そうなっているわけでもなく、たとえば「知ら『ない』」「知らないことに過失が『ない』」ということについて、主張者に立証責任があるとされていることがあります。

 ただ、現実の訴訟では、原告と被告が対立しているわけですから、一方が、たとえば「知らない」「知らないことに過失がない」ということの主張・立証責任を負担している場合、それらを裏付ける事実をある程度立証すれば、相手が反証できない限り、主張・立証責任を果たしたとして扱うということがあります。
 ここらあたりは、相当柔軟です。

 これは相手方がいる場合で、仮差押え、仮処分などの保全処分、破産手続きなどにおいて、疎明(証明より一段低い、一応確からしいとの証明のことです)が求められることがありますが、相手が反論できない、あるいは、相手に知らせることができないなどの事情があることがあります。

 例えば、破産しようとする人が、自分に土地・建物などの不動産がないということの疎明をしようとしても、日本全国のすべて不動産の登記簿謄本をとることができないことは当然です。
 この場合、自分の居住している自宅の賃貸借契約書のコピーを出すことで十分と扱われています。
 自分の住んでいるところが賃貸という人が、他に不動産を所有していることは、経験則上「まれ」だからです。
 抽象的に考えて、転勤族が、本来の自宅(自分名義の不動産)を所有しているということがありますが、申告しないと、詐欺破産罪に該当して、免責(借金が「ちゃら」になる)は受けられませんから、申告はするのが通常です。
 もっとも、悪意のない不動産所有もあります。
 兄や姉の住んでいる家が、亡父母、亡祖父母の名義のままになっている場合などです。この場合、厳密にいえば、書面による遺産分割手続きがなされていないことが多く、遺産分割手続きをすれば、自分の相続分は要求できるという可能性があります。現実には、口頭で遺産分割は終了している場合が圧倒的に多いのでしょうが・・
 相続財産=自分に取り分があると認識している人は、当然書かなければなりません。

 また、破産しようとする人が、預金を隠していないどうかチェックするため、生活に必要不可欠な電気・ガス・電話・水道の口座引き落としとなっている口座の預金通帳(自分・配偶者名義)か、コンビニ払いのレシートの提出を求められます。なお、自己破産する人に、新聞代の支出がない人が結構多いのには驚かされます。
 これらが1つでも欠けているということは、預金口座を隠しているという可能性が大きいです。
 ちなみに、いわゆるオール電化住宅ならガス代のレシートは要りません。

 さらに、給与などダメージの大きい財産の仮差押さえをしようというとき、相手に、不動産がないことを疎明しなければなりません。
 これも、現住所の不動産の登記簿謄本を提出するということになります。
 他人の名義なら問題ありません。やはり、自宅が賃借で、他に土地を持っていることはまずないからです。

 「ない」ということの証明や疎明は困難です。
 しかし、法律の世界は、物理や数学の世界ではありません。
 完全ということは要求されません。
 「常識的に」ということですね。

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