身近な法律問題
刑事補償
刑事補償法に定めがあり、未決の抑留又は拘禁を受けた場合無罪の裁判を受けた者が国に対して、抑留又は拘禁による補償を請求することができます。
当然の話ですが、例外として「本人が、捜査又は審判を誤まらせる目的で、虚偽の自白をし、又は他の有罪の証換を作為することにより、起訴、未決の抑留若しくは拘禁又は有罪の裁判を受けるに至つたものと認められる場合」は補償を請求できません。
「懲役、禁錮などの日数に応じて、1日1000円以上1万2500円以下の割合による額の補償金を交付する」「前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない」となっていますが、通常上限近いところで定められているようです。
ということで、金額は、事件を担当した裁判所(「受訴裁判所」といいます)が決めます。
私が、昭和55年4月に、大阪地方裁判所第3刑事部に配属になったときの初仕事は、機械的な勾留延長の他、心身喪失者で無罪となった刑事補償の決定に印鑑を押したことです。
犯罪はしているという認定です。しかし、措置入院等により、医療措置がなされるべきであり刑罰は受けるべきでないし、未決の抑留(未決勾留)がなされるべきではないという事例でした。検察官が起訴するに当たり、精神能力についての判断が甘かったという印象の事件でした。
刑法39条には「心神喪失者の行為は罰しない」と記載されていますから、精神鑑定の結果、心身喪失と判断されれば、無罪の裁判を受けます。
「本人が、捜査又は審判を誤まらせる目的で、虚偽の自白をし、又は他の有罪の証換を作為することにより、起訴、未決の抑留若しくは拘禁又は有罪の裁判を受けるに至つたものと認められる場合」に該当するわけはないですから、当然刑事補償はもらえます。
私が決めたわけではなく、裁判長と右陪席で概略金額を決めていて、3人目の裁判官が来るのを待っていたのですが、補償額は、当時の上限で1000万円近かった記憶があります。
もっとも、犯罪行為はしているわけですから「なぜ?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
いわゆる「新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件」「セレブ殺人事件」と週刊誌をにぎわした事件は、実名がでてますが、鑑定が「心身喪失」ですから無罪となるかもしれません。
そのとたんに仮名になります。
刑事補償金は支払われますが、名誉の回復措置はありません。
ちなみに、日本航空の逆噴射で有名となったK機長も実名報道はされなくなりましたね。