2015年~2017年バックナンバー
情報の非対称
経済学では、市場において、それぞれの取引者が有する情報に差があるときに、その不均等な情報構造を「情報の非対称性」 (asymmetric information) と呼びます。
つまり、情報の非対称性は、人々が保有する情報の分布に偏りがあり、経済主体間において情報格差が生じているということです。
情報の非対称性という用語は、アメリカの経済学者ジョージ・アカロフの論文 「The Market for Lemons」「Quality Uncertainty and the Market Mechanism」 で用いられたのが最後といわれています。
中古車市場を例に、情報の非対称性が市場にもたらす影響を論じたもので、買手が欠点のある商品とそうでないものを区別しづらい中古車市場では、良質の商品であっても他の商品と同じ低い平均価値をつけられてしまうことになる傾向があることを指摘しました。
これは、売手と買手の情報の非対称性が存在する環境で一般に当てはまる議論です。
しかし、情報の非対称性によって生じるこのような不平等な結果は、依頼の前に予想できます。そのため情報格差が察知される場合には、情報劣位者である財・サービスの購入者は、取引を拒否、つまり依頼しないという戦略をとることもありえます。 不平等な結果をもたらす取引には、手を出さない行動が最適な戦略だからです。
弁護士に依頼する場合を考えてみましょう。
明らかに、情報の非対称性が存在します。損害保険会社のように多数の顧問弁護士をかかえ、便利に使い分けているところは別として、通常の場合、依頼者一方だけの不確実性が高くなります。
情報の非対称性は、情報優位者である弁護士にとって有利な結果をもたらしますが、反面、依頼者は、弁護士情報について、依頼するまでわかりません。
未だに弁護士費用が「高すぎる」「時価」だと漠然と考えている人は多い思います。
弁護士は、弁護士報酬について、積極的に開示していません。
また、弁護士自身も、自分自身の情報、つまり、先ほど述べた価格の他、よく取扱う分野、学歴などはもちろん、生年、経験年数すらも開示しない傾向にあります。
その結果として情報の非対称性が大きいくなり、市場取引そのものがうまくいかず、市場の失敗を引き起こしているように思います。
つまり、市場の失敗本来弁護士に依頼すべき事案であるのに、弁護士に依頼しないということがおきています。
ただ、最近、弁護士もホームページを出すようになりました。
価格が記載されていれば比較は簡単です。
もちろん、弁護士は、具体的事案や証拠関係を見てはじめて妥当な着手金・報酬の金額がわかるのですが、通常は、損を覚悟してでも、公表した規定どおりの着手金・報酬にします。そうでないと規定を公表する意味がないからです。
ちなみに、「報酬を明記していない場合」「報酬は弁護士に相談」と記載されいてるのは、経験的にいって、旧大阪弁護士会報酬規程、大阪弁護士会法律相談センター基準に比べて高いことが多いようです。
また、どの弁護士に依頼したいかどうかについても、生年、出身大学、経験年数、職歴、取扱分野、著作物など、記載されている記事の記載で推し量れます。
なお、一般の人からよく質問される「専門分野」という点ですが、これを表示することは弁護士会が禁止していて、かわりに「よく取り扱う分野」が表示されています。ちなみに「勝訴率」の記載も禁止です。これらの禁止についての合理的な理由は、別の機会に述べたいと思います。
私は、積極的に、自分の情報について開示するという方針をとっています。
ただ、多くの弁護士は、価格を含め、自分の情報について開示しない傾向にあることは否めません。
その結果、本来弁護士に依頼すべき事案であるのに、弁護士に依頼しないということが生じることはあまり好ましいとはいえません。
もちろん、弁護士を選ぶにあたっては、本来は、しっかりした紹介者に紹介してもらうか、実際に当該弁護士に頼んだ人に仕事ぶりを聞けばよいのでしょうが、そうもいかないのが実情のようです。
私は、ある程度の規模の会社員などは、当該会社の顧問弁護士に相談するのが一番いいと思っていますが、相続や交通事故の被害者的立場の相談はともかく、自分や身内の離婚・債務整理などは聞きにくいでしょうね。
また、信頼できる紹介者がいれば、それにこしたことはないのですが、紹介できる人も必ずしも多くありません。
その結果、どの弁護士に相談したり、依頼したりするのがいいのか、わからないという人が出てきています。
それにかわって、弁護士自身が、自分の情報を積極的に開示することが考えられるべきでしょう。弁護士がホームページを持たなくても、大阪弁護士会の 「弁護士検索」 には、上記の情報を提供をしていない弁護士が多すぎます。最初からインターネットなどに興味のない弁護士、紹介がない限り絶対仕事をしないという方針の弁護士はやむを得ないのでしょう。