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2015年~2017年バックナンバー

こうもり外交

「卑怯なコウモリ」というイソップ童話があります。

昔むかし、鳥の一族と獣の一族がお互いに争っていました。
 その様子を見ていたコウモリは、鳥の一族が有利になると鳥たちの前に姿を現し「私は鳥の仲間です。あなたたちと同じように翼を持っています」と言いました。
 獣の一族が有利になると獣たちの前に姿を現し「私は獣の仲間です。ネズミのような灰色の毛皮と牙があります」と言いました。
 その後二つの一族間の争いは終わり、鳥も獣も和解した。しかし、幾度もの寝返りをしたコウモリはどちらの種族からも嫌われ、仲間はずれにされてしまい、やがて暗い洞窟の中へ身をひそめるようになりましとさ。


 韓国へのミサイル配備をめぐって、中国とアメリカが「つばぜり合い」をしています。
 アメリカは韓国国内にTHAAD(高高度防衛ミサイル。サード)の配備を計画しています。
 これに中国の真っ向から反対しています。

 THAADは、アメリカ国防総省がミサイル防御網(MD)の中核と位置づけている弾道ミサイル迎撃システムです。
 日本でも導入されているPAC3が迎撃高度15キロまでと低高度での迎撃を主とするのに対し、THAADは大気圏外での迎撃を可能としています。


 平成26年5月28日には米経済紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が「アメリカ、韓国へのミサイル防衛システム配備を検討」と報じ、また、平成26年6月3日、駐韓米軍司令官が韓国国防研究院が「THAADの韓国展開を本国(アメリカ防総省)に要請した」と明らかにしました。

 また、平成27年2月6日、アメリカのブリンケン国務副長官は、インタビュー取材に応じ、この中で「THAADが含まれる可能性がある朝鮮半島ミサイル防衛体系は、領域内における不安定性の最大の根源である北朝鮮を直接的に狙ったもの」と答ています。


 一方、中国は、絶対反対です。

 中国の習近平国家主席が、平成26年7月、中韓首脳会談で、朴槿恵大統領に「駐韓米アメリカを保護するという理由により、アメリカが韓国にTHAADを配備する場合、韓国は主権国家として当然の権利を行使し、反対の意志を表明してほしい」と協力要請しました。
 中国は、韓国を「主権国家」としてといいながら、自分の言うことを聞けとばかりの「属国」扱いです。

 また、平成26年9月17日の環球網(電子版)は「配備は中国の安全保障にとって深刻な脅威」と本音を示し、「配備について韓米ともに北朝鮮の武力挑発を牽制するためとしているが、これは言い訳だ。北朝鮮の脅威は長距離砲であり弾道ミサイルではない」と報道しました。


 実際のところ、THAADは大気圏外での迎撃を可能としていますが、北朝鮮のミサイルが、大気圏外に出て韓国に落下ということは考えられません。

 THAADを、中国から至近距離の韓国に配備すれば、発射後わずかの時間で捕捉が可能で、迎撃力は飛躍的に増加します。

 アメリカは「THAADは矛ではなく盾だ。他国の脅威にならない」「THAADは防御用の武器であり、中国が敏感な反応を見せる必要はない」(韓米連合軍・司令官)と反論しています。


 アメリカは軍事予算削減で世界各地の基地や部隊を整理統合中で、1950年の朝鮮戦争以来、実質的に米軍が持っていた朝鮮半島の戦時作戦統制権を来年に返還する方針で、在韓兵力の削減も進めていますが、THAAD配備は米軍が唯一、積極的に進めている軍備増強の計画です。
 これに韓国が反対するなら、米軍が韓国にいるメリットも激減します。
 韓国では軍幹部が「北朝鮮と戦争になれば、韓国軍だけでは負ける」と公言しています。

 一方、経済面では中国なしには成立ちません。
 韓国銀行(中央銀行)によると、一昨年の韓国の輸出額、6171億ドルのうち、21.9%が中国向けです。


 中国にそっぽを向かれれば経済が立ちゆかなくなりますが、米軍に去られれば防衛体制が破綻します。
 どちらをとっても、国家の危機に直結しかねません。

 さあ、どうするのでしょう。

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