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雑記帳

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道路の陥没 1年で1万件超、下水管 一斉に耐用年数超え

 令和7年1月28日に埼玉県八潮市で発生した道路の陥没事故がありました。
 転落したトラック運転手が、一刻も早く救出されますよう祈念いたします。

 こうした陥没が全国で増加傾向にあり、専門家は「どこでも起こり得る」と指摘しています。
 埼玉県知事は、令和7年1月29日の会見で、「下水道が腐食し穴ができ、土砂が押し流され、空洞ができた可能性がある」と話しました。
 また、埼玉県12市町120万人以上を対象に、下水道管がふさがり汚水があふれる可能性があるとして、風呂や洗濯など生活排水を控えるよう要請しています。
 風呂が使えない八潮市民のため、東京都足立区(八潮市と足立区は接しています)の銭湯が、無料で八潮市民に利用してもらっていたりします。

 今回の陥没の原因は何でしょう。

 簡単言えば「硫化水素はコンクリート管のおもに上部、壁面に結露して硫酸に変化します。すると、コンクリート壁を腐食させ鉄筋をむき出しにします。保護層を失った鉄筋も腐食してひびを作り、損傷は大きくなります」ということです。
 そして、硫酸によって下水道管が腐食し、その結果、下水道管に穴が開くと、周囲の土砂が吸い込まれ空洞ができ、車両の重みや何らかの衝撃で陥没すると道路に穴が空きます。
 それがとてつもなく大きな孔になったのは、下水道管が4.75メートルと太かったからといわれています。

 硫化水素が硫酸になるメカニズムは、難しくいえば「国交省国土技術政策総合研究所によると、下水道管を流れる汚水に含まれるし尿や洗剤などから硫化水素が発生し、落差や段差の大きいところでかき回され、空気中に放出される。その後、管の内壁に付着している細菌の働きによって酸化し、液体の硫酸となって管が腐食、破損する原因となる例が多い。様々な管種の中でもコンクリート製が腐食しやすい」ということです。

 また、大阪地方裁判所の判決に詳しく記載されています。「下水道施設に伴う硫酸によるコンクリート腐食は、下水中あるいは汚泥中の硫酸イオンに起因する硫酸塩還元細菌と硫黄酸化細菌の代謝による化学的侵食である。硫黄酸化細菌が生成する硫黄による下水道施設に特有なコンクリート侵食は、嫌気性状態の下水中及び汚泥中での硫酸塩還元細菌による硫酸塩からの硫化物の生成、液相から気相への硫化水素ガスの放散、密閉されたコンクリート構造物の気相部内面の結露水中での好気性の硫黄酸化細菌等による硫化水素からの硫酸の生成、硫酸とコンクリート中の成分との反応によるコンクリートの劣化の順に進行する。
 下水あるいは汚泥中では、主に嫌気性条件下での無機性硫黄化合物の生物化学的還元(硫酸塩還元細菌による硫酸塩の電子受容体としての利用)により硫化物が生成される。
 液相中の分子態のH2Sは、下水あるいは汚泥の流れの乱れや攪拌等により気液接触面積が大きくなると、液相から気相への放散量が増加する。H2Sの気相中への放散量は、まず、下水あるいは汚泥中の酸化物濃度に依存し、次に、流れの乱れや攪拌の影響が大きく、下水あるいは汚泥中の硫化物濃度が高い箇所において、構造的な流れの乱れや攪拌(気液混合)が激しい場合(落差のある人孔等)には、多量の硫化水素が気相中へ放散し、密閉構造の場合、気相部のH2Sガス濃度が上昇する。
 密閉されたコンクリート構造物気相部のH2S濃度が上昇すると、内面の天井や側壁コンクリート表面結露水中で好気性の硫黄酸化細菌により硫化水素から硫酸が生成される。 気相中の硫化水素は、化学的に元素硫黄やチオ硫酸イオン等に酸化され、コンクリート腐食が進行し始めた施設では、H2Sガスに伴う臭気の発生とコンクリート表面への硫黄結晶の付着が一般的に観察される。そして、硫黄酸化細菌は、硫化水素、元素硫黄、チオ硫酸イオン等を酸化することによりエネルギーを獲得し、亜硫酸を経て硫酸を生成する。施工直後のコンクリート表面はpH12~13の強アルカリ性であり、pH10以上の時、全ての硫黄酸化細菌は生育できない。供用後の下水道施設のコンクリートは、二酸化炭素によるコンクリートの中性化が進むことでpH8~9の弱アルカリ性になる。また、硫化水素の化学的酸化又は硫黄酸化細菌による生物学的酸化により生成した硫黄結晶や汚泥等がコンクリート表面に付着すると、表面のpHは中性領域になる。このpH領域では、硫黄酸化細菌が、下水中で硫酸塩還元細菌により生産され気相中へ放散した硫化水素を硫酸に変化させる。
 コンクリート表面では、硫酸イオン濃度が増加すると、局所的にコンクリート中のアルカリ成分である水酸化カルシウムが硫酸イオンと反応し、二水石膏が生成し、生成した二水石膏がコンクリート細孔溶液中ではカルシウムイオンと硫酸イオンに解離し、フリーになった硫酸イオンがセメント水和物等と反応してエトリンガイトを生じる。エトリンガイトはアルカリ性の環境では安定しているが、コンクリート表面からの硫黄酸化細菌による硫酸の供給が増加すると、コンクリート中の硫酸イオン濃度が上昇しつつコンクリート表面部のpHが低下し、中性域あるいは酸性域になると、エトリンガイトから二水石膏が再生成される。pH1~2の領域では、二水石膏はパテ状になり、下水の飛沫等の衝撃でも容易に剥離する。表面からの硫酸の供給によるコンクリート腐食の進行とともに、表面の二水石膏層とその内部のエトリンガイトの層はより深部へと進行する。下水道施設内での硫黄酸化細菌の増殖に伴うコンクリート腐食は、硫酸のコンクリート内面への侵入により特徴付けられる。
 下水道施設における硫酸によるコンクリート腐食は、流れの乱れや攪拌が大きく、密閉され、発生するH2Sガス濃度の高いところでの発生事例が多いとされる。下水道施設のコンクリート腐食・劣化事例から判断した硫酸によるコンクリート腐食の発生しやすい施設には、管路施設では、段差・落差の大きい箇所の気相部が含まれている。」(大阪地方裁判所・令和元年(ワ)第8381号 損害賠償等請求事件。令和3年12月16日言渡しの判決文の抜粋。

 なお、硫化水素は(H2S)、下水道管に段差・落差の大きい箇所、カーブしている場所などで硫酸になりやすいと国土交通省は、各地方自治体に注意を喚起しています。
 H2Sが水中に存在する分には、あまり問題がないのですが、気体となると、細菌により硫酸(H2SO4)になりやすいからです。

 八潮市の現場付近は維持管理により注意が必要な箇所だったとみられます。ただ、ほとんどの自治体において、財政が厳しく人手も足りない中で法定以上(平成27年から、5年に1回以上の点検が義務づけられています)の頻度で点検を行うのは難しいというのが実情です。
 硫化水素(H2S)、硫酸(H2SO4)の「S」(硫黄)はどこにあるのでしょうか。硫黄は、人体や洗剤などに含まれていますから、どの下水にも存在するということです。
 つまり、下水道管の硫酸による損傷と、下水道管の破裂は、どこでも起こり得ます。

 国交省のホームページ(令和4年度)によりますと、道路の陥没発生件数は1万548件でそのうち下水道管などを起因としたものは約2600件だったということです。
 下水道の標準耐用年数は約50年で、50年を経過した下水道管は令和4年度末・約3万km約7%、令和14年度・約9万km約19%、令和24年度・約20万km・約40%にもなるということです。

 基本的に、下水道化が早かった地域の下水道管は老朽化し、比較的最近できた下水道管は老朽化前です。
 下水道化が早かった地域にお住まいの方は、特に、ご注意ください。といっても、注意のしようがありませんね。道路に「落石注意」と書かれているのと同じです。
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