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雑記帳

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なぜ日本で「人手不足」が深刻化しているのか

 日本経済においては、労働投入量の減少が経済成長の根本的なボトルネックとなっています。
 他方で、減少する労働供給に反して労働力に対する需要は底堅く、結果として労働市場の需給ひっ迫が常態化しています。

 人手不足が慢性化している背景にはどのような事情があるのでしょうか。

 国の経済の状況を分析するにあたり、失業率はこれまで最重要指標の一つでした。
 失業率が低ければその国の経済の状況が良好であることが示唆されるし、その国の経済の状況が良好であれば、失業率が低くなります。
 日本の近年の失業率は、足元では概ね2%台半ば程度の水準で推移しています。

 労働市場では労働者が新たに就職や転職をしようとする際の職探しの期間に生じる自発的失業がどうしても発生します。景気変動とは独立して起こるこのような雇用のミスマッチは構造的失業と呼ばれ、その比率は「構造的失業率」として推計されます。
 日本の近年の失業率は概ね構造的失業率と同程度の水準にあるとみられ「完全雇用の状況」に近いと考えられます。

 現在のように2%台半ばの水準が安定して続いたのは1980年代後半から1990年代前半にいたるバブル期以来のことです。
 バブル期には、採用する企業よりも学生の力が強かったから起きたものです。当時の企業は新卒採用において学生を丁重にもてなし(ときには、これという学生を、就職解禁日にハワイ旅行に招待し、他の会社を受験させないと言うことがありました)、大量の人員を採用し、優秀人材の確保のために従業員へ高い報酬を支払ってきました。

 一方で、バブル崩壊以降、1990年代から2010年代半ばまでは失業率はしばらく高い水準で推移してきました。
 国際的にみれば失業率は低かったのですが、近代の日本経済の歴史からすれば、この時期は相対的に「労働者が余っていた時代」だといえます。
 需要に比して労働力が余ると、労働を需要する側である企業の力が強まります。そして、労働者は企業側に有利な条件で働くことを余儀なくされます。実際、正社員の賃金の伸びは鈍化し、自身の意思に反して非正規雇用に就かざるを得ない人が増えるなど雇用の問題が社会問題化しました。

 その時々の需給環境によって労働者と企業のパワーバランスは変化します。
 現在のように失業率が低位で安定しているということは、労働者にとっては有利、企業にとっては不利です。

 令和5年の第4四半期において、多くの企業が人員不足だと答えています。
 過去の水準と比較すると1990年代初頭近くの水準に達しています。

 日本全国の企業で人手不足が深刻化しているなか、どのような仕事で特に人が足りていないのでしょうか。

 有効求人倍率をみると、求人がたくさんあるにもかかわらず求職者が少ない仕事は、専門技術職、販売や営業職の含まれる販売職、介護サービス、飲食物調理、接客に関する職業などが含まれるサービス職、警備員など保安職、タクシーやバス、トラック運転手などが含まれる輸送・機械運転、建設・採掘に関する職業などとなります。
 職業安定業務統計があくまでハローワークを介した職業紹介に限定されているという点には留意する必要がありますが、事務職などは比較的低い倍率です。

 現在、IT専門職などハイスキル職種の人手不足が深刻化していると同時に、いわゆるエッセンシャルワーカーと言われるような現場の仕事に従事する職種で人手不足が深刻化しています。
 このように、ハイスキルワーカーとエッセンシャルワーカーが不足し、事務職など中間的な仕事で人余りが発生している「労働市場の二極化」は、世界的な傾向として指摘されています。

 ハイスキルの仕事はまだわかるのですが、なぜこうしたエッセンシャルワーカー、つまり、現場仕事の需給がひっ迫しているのでしょうか。
 人が体を動かして行う仕事については、たとえその仕事が定型的なものであったとしても、機械に代替する障壁が高いからです。

 過去に、インターネットやパソコンの普及によって紙のやりとりを伴う仕事がなくなってきたように、定型的な事務作業を行うホワイトカラーの仕事はITシステムの導入などによってかなりの効率化が行われてきたとみられます。
 あるいは、製造業の領域でも産業用ロボットの普及などによってファクトリーオートメーションが大きく進展している。

 一方、介護や建設、運転の仕事など身体的な作業を伴う仕事を人手に頼らず処理しようとなると、センサーなど高度な技術が必要となります。
 しかし、現状の技術水準において、資本コストに見合うだけのパフォーマンスを発揮できるロボットはそう多くありません。
 こうした事情がホワイトカラーの仕事の人余りが発生する一方で、現場仕事の人手が大きく不足する背景にあると考えることができます。
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