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2024年バックナンバー

雑記帳

ノーベル経済学賞に米大3教授 国の繁栄は社会制度が左右

 令和6年10月14日、スウェーデン王立科学アカデミーは、今年のノーベル経済学賞を、米マサチューセッツ工科大(MIT)のダロン・アセモグル教授(トルコ出身)、MITのサイモン・ジョンソン教授(イギリス出身)と米シカゴ大のジェイムズ・ロビンソン教授(イギリス出身)の3名に授与しました。

 一般に、世界の最も豊かな国々の20%は、最も貧しい国々の20%よりも約30倍豊かとされています。
 さらに、最も豊かな国々と最も貧しい国々の収入格差は持続しています。最も貧しい国々も豊かになっていますが、最も繁栄している国々に追いつくことはありません。なぜでしょうか。
 3人の受賞者たちは、この持続的な格差の一つの説明として、社会の制度の違いに関する新たな説得力のある根拠を示しました。

 3人の受賞者は、かつてヨーロッパ列強の支配下にあった旧植民地に注目しました。
 そして、豊かな国と貧しい国が生まれる原因に着目し、植民地時代に導入された社会制度の違いを調べ、現代の経済格差に決定的な影響を与えていることを根拠づけました。
 そして、法の支配が乏しく、人々を搾取する制度を持つ国では、経済成長や技術革新が阻害されるとの理論を確立しました。

 まず、3人の受賞者は、なぜ旧植民地であった国々の一部が豊かで、他の国々は貧しいのかを説明しました。
 植民者によって導入されたさまざまな政治・経済システムを調査し、制度と繁栄との関係を示しました。また、制度の違いがなぜ持続するのか、そして制度がどのように変化するのかを説明する理論的な説明をしました。
 なお、研究対象は、前記のとおり、ヨーロッパ列強支配下の植民地に限定されていて、日本が併合した台湾と朝鮮半島については触れていません。

 3人の受賞者は、北米にあるノガレスという地方に着目しました。
 ノガレスはフェンスによって半分に分けられています。

 このフェンスの北はアメリカのアリゾナ州ノガレスで、その住民たちは比較的裕福で、平均寿命が長く、ほとんどの子供たちが、最低限度、高校を卒業します。
 財産権は保護されていて、自分の投資から得られる利益を確実に受け取れます。
 また、住民は自由選挙を通じて、不満があれば政治家を交代させることができます。

 このフェンスの南は、メキシコのソノラ州のノガレスです。
 この地域はメキシコの中でも比較的裕福な場所ですが、それでも北側に比べると住民ははるかに貧しいです。
 組織犯罪が、ビジネスの立上げや運営をリスクのあるものにし、腐敗した政治家を追放するのも困難となっています。

 なぜ、この同じ街の2つが、これほどまでに異なる生活条件を持つのでしょうか。
 地理的には同じ場所にあり、気候などの要因はまったく同じです。
 また、両方の地域の住民は、もともとメキシコの一部であったため、長期的に見れば多くの共通の祖先を持っています。
 文化的にも多くの共通点があり、食べ物や音楽などは両側で似ています。
 決定的な違いは、地理や文化ではなく「制度」です。
 北側の住民はアメリカ合衆国の経済制度の中で暮らしており、教育や職業を選ぶ自由があります。また、彼らはアメリカ合衆国の政治制度の一部であり、広範な政治的権利を享受しています。
 他方、南側の住民は、それほど恵まれておらず、経済状況も政治制度も劣ります。
 この分断されたノガレスという都市は例外ではなく、むしろ植民地時代から現在までの「制度」に起因することを示しました。

 ヨーロッパ列強が、広範な地域を植民地化したとき、既存の制度は劇的に変わることがありましたが、その変化の仕方は場所によって異なりました。
 ある植民地では、現地の住民を搾取し、自然資源を採取することを目的とした制度が導入されました。
 他方、他の場所では、欧州の入植者のために長期的な利益をもたらす包括的(inclusive)な政治・経済制度が構築されました。

 植民地の性質に影響を与えた重要な要因の一つは、植民地化される地域の人口密度でした。
 人口が密集している地域では、より大きな抵抗が予想されました。
 しかし、いったん支配されれば、多くの労働力を提供できるため、利益が見込めました。
 そのため、すでに人口が多い植民地には、比較的少ないヨーロッパ人が入植しました。

 他方、人口が少ない地域では、抵抗が少なく、労働力も乏しかったため、より多くのヨーロッパ人が入植しました。
 これにより、発展した政治的および経済的システムも異なることになりました。

 入植者が少なかった地域では、支配者層に利益をもたらす「搾取的な制度」が導入され(自国民やその子孫が、植民地で永続的に居住することを前提としていません。一握りの、支配者を植民地に配置すれば良いだけです)、一般の住民は犠牲にされました。選挙は行われず、政治的権利は極めて限定されていました。
 他方、入植者が多かった地域、つまり、母国などからの移民を受け入れることを前提とした「入植地」には、定住者に働くための動機を与えるために、より包括的な経済制度が必要でした(自国民やその子孫が、植民地で永続的に居住することを前提としています。自国と同様、入植者や子孫のために、民主主義体制をつくる必要がありました)。これにより、政治的権利を求める要求が生まれ、利益の一部を共有することが求められました。そして、より広範な政治的権利が与えられていたのです。

 また、3人の受賞者は、大衆を搾取するために作られた制度は長期的な成長に悪影響を与え、経済的自由と法の支配を確立する制度は、成長に良い影響を与えると述べました。

 ここでいう、経済的自由と法の支配を確立する制度を導入した地域として念頭にあるのは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、カナダなどの先進国です。
 大衆を搾取するために作られた制度を導入した地域は、その他のヨーロッパ列強に植民地支配された国々です。

 前記のとおり、研究対象は、ヨーロッパの植民地に限定されていて、日本が併合した台湾と朝鮮半島については、記載されていません。
 ただ、日本は、経済的自由と法の支配を確立する制度を、台湾と朝鮮半島に導入しました。
 加えて、道路、鉄道、ダムなどのインフラを整え、高等教育(京城帝国大学や台北帝国大学など)はもとより、ほとんどの人が、初等教育、中等教育を受けられるようにしました。
 人口は、朝鮮半島については、1910年ころから1945年ころまでに、人口は1300万人が2倍の2600万人に増え、平均寿命も24歳が56歳に延び、識字率も4%が61%に上がっています。台湾については、人口が1896年の約260万人から1943年の約658万人に増加しています。

 韓国も台湾も、現在、旧宗主国である日本と1人あたりGDPにおいて、並ぶぐらいに成長しました。
 日本の統治時代は、経済的自由と法の支配を確立する制度を導入した地域であり、大衆を搾取するために作られた制度を導入した地域ではありません。
 なお、北朝鮮は、貧しいままではないかとおっしゃる人がいるかも知れません。北朝鮮が貧しいのは、第二次世界大戦後、北朝鮮と韓国に分断した後、独裁制により、一握りの支配者が多くの国民を搾取しているという理由によるものであり、日本の統治とは関係はありません。
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